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帝都テレビ以外の報道機関も駆けつけ始めた。帝都テレビのライバル局、首都テレビの女性記者、高栖明日香はマイクを手にしていた。カメラマンを従え、白い息を吐きながら、爆心地に一直線にひた走る。
しかし、窪地に立てば、がくりとうな垂れながら、マイクを地面に落す。
眉をひそめながら、両手をメガホン代わりにしていた。
「ねえ、どこにいるの? 返事をして! え? へ?」
彼女は靴裏に柔らかい感覚があり、脚を上げた。白い埃を被った男性が、顔が青い空を向いて倒れている。
男は帝都テレビの記者、剣だった。モラルマンに変身していた彼は、クートニアン女王の爆発に耐えれたのだ。しかも、爆風から地球を守り抜いた。
仰向けの彼はゆっくり目を開けて、状態を起こす。「やだ」と、高栖明日香は後退りしていた。真っ赤な顔で、スカートを押さえる。
剣の視界は、目が覚めたら真っ白であったのだ。高栖明日香は、ふくれっ面をしている。
「もう剣さんったら、また、記者の仕事をサボッて寝てたなんて」
周囲はモラルマンの粉々になった白いバトルスーツが、雪のように舞っていた。
「高栖さん、わざとじゃないんだ。ごめんなさい」
剣は両手を顔の前で合わせながら、高栖明日香を拝んでいた。
白い千切れた布がひらひら花びらのように、モラルマンのバトルスーツだたモノが舞い散っている。
「これは?」
剣の手には、モラルマンの白いマフラーの切れ端だけが、掴まれていた。手に取り、目を腫らしながら、叫ぶ!
「モラルマンもクートニアン女王も死んだ! これで一万年に渡る正義が勝利したのだ」
「ねえ、剣さん?」
高栖明日香は、目を限界まで開きながら、声をかけるが、剣は頷くだけだ。
全世界でテレビの前は、歓声や万雷の拍手に包まれていた。現代地球に生きる人類は、モラル星と交流さえなのだ。
モラル星の位置も、文化も法律も全然知らない。ただ、モラルマンのせいで、名前だけは知っていた。
モラル星人が、無縁な星の人々を巻き込み、迷惑な戦いを繰り広げる時代は、終わを告げた。
モラルマンの変身できなくなり、モラル星に、帰還できなくなった。彼は剣として、テレビ局の社員を続けることになった。
平和な日本で生活をする。剣の正体を知らない、高栖明日香と結婚して家庭を築く。
剣夫妻は、日本人として数十年から、百年くらいの一生を終えられるであろう。
何が正義で何が悪かなど、時代や地域、さらに、同時代で同じ国に住む個人によって違うのである。
愛し合い夫婦となった明日香とも、意見の違いや、性格の不一致で喧嘩になったりもする。
戦いは何も生み出さないのだ。モラル星人のせいで、一万年続いた迷惑な争いから、宇宙に住む全ての生命体は、解放された。
(完)
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