戦え? 白いモラルマン!

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 変身前のモラルマンは、帝都テレビ記者、(つるぎ)大和(やまと)を名乗っている。  隣の山頂から、全世界にハンディカムとスマホを使って、生中継をする。  偶然、休暇でスキーをしていた、とテレビ局にはスマホで伝えてある。変身をしていないときは、モラル(せい)で、人体改造手術を受け、生物学上、完全な地球人となっているのだ。  三脚の上に立てたハンディカムを、帝都テレビに中継する。レンズに向って叫ぶ。 「クートニアン女王が突然、薩美(さつみ)町営スキー場で巨大化して暴れています。地元の薩美(さつみ)超役場に寄れば、現時点で人的被害は確認されていません。以上、現場から、(つるぎ)がお伝えしまた」 〈(つるぎ)さん、(つるぎ)さん。逃げてください!〉  (つるぎ)は、帝都テレビ報道スタジオからの、絶叫に近い呼びかけを無視した。三脚の上でハンディカムを、出て来い、モラルマンと叫ぶ、クートニアン女王に固定する。  レンズの反対側では、モラルマンこと、(つるぎ)は、変身ブレスレットの赤いスイッチを指で押そうとしていた。 「変身してしかも巨大化したら、地球時間で五分しか戦えない。五分を過ぎたら、もう、モラルマンには変身できない。二万光年離れた故郷のモラル(せい)に、宇宙を飛んで帰れなくなってしまう。しかし、これが最後の戦いなんだ。地球の人々、モラル(せい)の人々を守るためなんだ。変身!」  (つるぎ)の全身は、白いバトルスーツに包まれている。そして、巨大化して行く。首の白いマフラーが、風で顔の前を掠め、手で振り払う。クートニアン女王の前で、仁王立ちになり、立ちはだかる。 「正義の味方、モラル(せい)のモラルマンだ。クートニアン女王に告ぐ。モラル(せい)の法律に従い、逮捕する」 「わははっ、かかってくるがよい。モラルマンよ。オマエは五分以上巨大化したら、もう、故郷のモラル(せい)に帰れなくなるのだぞ! 私は巨大化しても、数時間は戦えるのだ。逃げるなら今のうちだ!」 「正義のため、僕は戦う!」  黒づくめドレスに身を包む、クートニアン女王とモラルマンは、間合いを取り、互いに動かず対峙していた。白い冬の山並みをバックにして、ただ、時間だけが過ぎている。  モラルマンはクートニアン女王の隙を探せない。ためらわず、腰からビームピストルを抜き、片手で連射していた。  巨大なビームピストルは反動が強く、アンフェア女王に当たらない。外れたビームは、虚しく麓の雪を溶かすだけだ。  アンフェア女王が、血相を変えながら、モラルマンの手首を握る。二人の距離が縮まったのだ。ビームピストルは二人の足元に落ちる。  もみ合いになり、二人の戦いは苛烈を極めた。  どちらかが足を動かせば、地響きがして、相手を雪面の叩きつければ、白い雪が埃のように舞い散る。  もう五分を過ぎた頃、モラルマンは、クートニアン女王の、すねを足蹴りにできた。  つらそうな表情で、額に汗が浮かぶクートニアン女王は、うつ伏せになる。  モラルマンは、クートニアン女王に馬乗りになれた。モラルマンは腰のポケットから、巨大化した手錠を取り出す。 「クートニアン女王、逮捕する。モラル(せい)で裁判にかける」 「わははっ、もう、五分経ったオマエはモラル(せい)に帰れないぞ」 「それなら、日本の裁判所で裁いてもらうのみだ!」  クートニアン女王は、後ろ手で手錠をはめられた。しかし、あろうことか、指輪から針が突き出る。モラルマンの手のひらに刺さる。 「うっ、毒針を刺したな」  モラルマンは、白いグローブで覆われた自分の右手を、じっと見つめる。けばけばしい、メイクをしたクートニアン女王は、口角を吊り上げた。 「わははっ、モラルマンめ。それは毒針だ。五分でお前は死ぬ! 私はさせば、五分で爆発して、この地球ごと吹き飛んでやるわ」 「卑怯な。僕がクートニアン女王に、覆いかぶさって地球の人々を守る! 正義のためだ。僕は覆いかぶさる。一万年に渡る宇宙の(あく)との戦いが終らせるんだ」  クートニアン女王を中心に大きな火の玉が大爆発をした。  その瞬間、モラルマンは目の前が真っ白になった。周囲の景色は一変して、丸くへこんだ砂場のようになる。手錠やビームピストルも、粉々になってしまった。
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