始まりが終わりだなんてくだらない。

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始まりが終わりだなんてくだらない。

「だからアンタはいじいじと物事を後ろ向きに考えすぎなのよ!……はあ?相手の気持ちを考えずに自分の想いを押し付けれないですって?馬鹿馬鹿しい!相手の顔色ばかり窺って伝えもきれないような気持ちなんて、そんな物は元から無いのと同じなのよ!」  今日の電話の話し相手は妹の灘川(なだがわ) (かおる)。週末の夜の電話の相手は大体いつも馨と決めている。  最近恋する相手が出来た馨は、容姿は悪くないけれど嫌な思いをしたことがあって今までずっと恋愛から離れた生活を送っていた。  久しぶりの恋に戸惑いながらも少しずつ進もうとする馨の背中を、こうして週末押してやるのが私の姉としての優しさのつもりなのだが。  ……馨からは私が恋愛経験豊富な姉だと誤解され、とうとう「ナギ姉の恋愛観は強引すぎるのよ!」と怒られてしまった。  でも私は思うのよ。恋愛なんて強引さも多少なければ上手くいくのも行かなくなるんじゃないの?お互いが遠慮ばかりしあう恋愛なんて、この世で私が最も理解出来ないものと言ってもいいわ。 「分かった、私が言い過ぎたわよ。アンタはアンタなりに頑張って進もうとしている事を否定している訳じゃないの。ただちょっとと重なって苛ついただけ。……ええ、ああそうだったわ。」  馨との電話を切ろうとして、今日一番言わなければと思って用意していた一言をスマホに向かって告げる。 「私は多分……近々、灘川 (なぎさ)に戻るわ。」 『え?ちょっと、ナギ姉?それはどういう……』  妹の追及を聞こえないふりをして、スマホの通話を切って電源を落とす。  これから私は何よりも私が嫌う、人の顔色ばかりを気にする女へと変わる。妹との電話が終われば私は一言も喋らなくなる。  静かな室内で玄関の鍵を開ける音が聞こえてくるまで、ただ耳を澄ませて待つだけのつまらない女になるのよ。
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