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3 ベーシックストラテジー
真斗が女性ディーラーと交代し、ディーラーの位置につく。
「お!仮面貴族? ラスボス? お姉さんのが良かったなぁ」
三十代とおぼしき男性客は少し酔っている。大勝ちした高揚感もあってか、饒舌だ。
真斗は口元に笑みを浮かべ、客がベットするのを待った。
BJは、ディーラーが自分とプレイヤーにカードを配り、手札の合計が21 に近い方が勝ちだ。勝負が早いシンプルなゲームだからこそ、熱くなり、のめり込む。経営側から見れば、回転が速く、時間辺りの売上が高い。
BJのルールは簡単だ。絵札と10は10として数え、2から9は数字通り、Aは手札に応じて、1にも11にも使える。
ディーラーは17を超えるまでカードを引き続けなければならないが、プレイヤーは21 以下なら、何枚でも引ける。
客の手元には、三百万のチップ。勝ち逃げしてもおかしくない。
おそらく、ディーラーがそのままだったら、客は帰っていた。
不思議なもので、勝ち続けると勝ちに慣れて、ゲームに飽きてくる。勝った瞬間の高揚感が薄まるからだ。
ただ、顔を隠したディーラーが登場したことで、客の心理が動いた。ここまで来たら、ラスボスを倒して有終の美を飾りたい。勝ち続けた驕りが、客を強気にさせていた。
客はいきなり、十万円のチップをベッティンクサークルに置いた。ベッティングサークルは、テーブル上の賭け金(チップ)を置く場所だ。真斗が客のベットを確認し、ゲームをはじめる。
真斗が自分に二枚、客に二枚配る。ディーラーは自分のカードを一枚、表向き(アップカード)にするのがルールだ。真斗のアップカードはQで10だ。
ディーラーの真斗は、17を超えるまでカードを引き続けねばならない。21を超えたら負けのため、ディーラーのハンド(役)のパターンは、17、18、19、20、21の五種類しかない。22以上はドボンだ。
ディーラーは、17を超えた時点で役が完成したとみなし、そのときの手札で勝負となる。
しかも、一枚はアップカードとしてプレイヤーに見せている。ブラックジャックは、プレイヤーが有利な勝ちやすいギャンブルのため、世界中で人気が高いのだ。
真斗の手札は二枚で17。客は三枚目をヒットし19。客が勝ち、配当は倍の二十万だ。
二ゲーム目は引き分けで、勝ち負けなし。
三ゲーム目は真斗が21を超えてバーストし、客が勝った。
真斗は客の賭け方を注意深く観察しながら、五ゲーム目を終えた。
ここまでは、一勝四敗だが、客の賭け方に戦術が無いことは、すぐに見抜いた。
ブラックジャックには、ベーシックストラテジーという基本戦略がある。ディーラーのアップカード(表向きのカード)と手札の組み合わせで、もう一枚引くか否か(ヒットかスタンド)を判断するための戦略が、ベーシックストラテジーだ。確率計算に基づいている。
大勝ちは狙えないが、小さく勝って負けを最小化する、基本戦略だ。
たとえば、ディーラーのアップカードが10で、プレイヤーの手札が15だった場合は、プレイヤーはもう一枚追加だ。
ディーラーのアップカードが5で、プレイヤーの手札が15ならカードは追加しない。プレイヤーは15で勝負することになる。
これが、プレイヤーの手札にAがある場合は戦いかたが変わってくる。
真斗は昔、ディーラーをしていたころに、基本戦略を頭に叩き込んだ。六戦目以降は、基本戦略に沿ってゲームを進め、じわじわと客の勝ち分を回収した。
客はチップが五十万を切ったところで、ようやく勝ち目がないと気づき、退散した。
閉店し、スタッフが全員帰った後、バックヤードで残務をしていると、佐伯高史が入ってきた。
佐伯には、ネットカジノができる漫喫を任せている。もちろんネカジも、バレたら刑事罰を受ける、違法賭博だ。
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