3 ベーシックストラテジー

1/1
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

3 ベーシックストラテジー

 真斗が女性ディーラーと交代し、ディーラーの位置につく。 「お!仮面貴族? ラスボス? お姉さんのが良かったなぁ」 三十代とおぼしき男性客は少し酔っている。大勝ちした高揚感もあってか、饒舌だ。  真斗は口元に笑みを浮かべ、客がベットするのを待った。  BJ(ブラックジャック)は、ディーラーが自分とプレイヤーにカードを配り、手札の合計が21 に近い方が勝ちだ。勝負が早いシンプルなゲームだからこそ、熱くなり、のめり込む。経営側から見れば、回転が速く、時間辺りの売上が高い。  BJのルールは簡単だ。絵札と10は10として数え、2から9は数字通り、Aは手札に応じて、1にも11にも使える。  ディーラーは17を超えるまでカードを引き続けなければならないが、プレイヤーは21 以下なら、何枚でも引ける。  客の手元には、三百万のチップ。勝ち逃げしてもおかしくない。 おそらく、ディーラーがそのままだったら、客は帰っていた。 不思議なもので、勝ち続けると勝ちに慣れて、ゲームに飽きてくる。勝った瞬間の高揚感が薄まるからだ。  ただ、顔を隠したディーラーが登場したことで、客の心理が動いた。ここまで来たら、ラスボスを倒して有終の美を飾りたい。勝ち続けた驕りが、客を強気にさせていた。  客はいきなり、十万円のチップをベッティンクサークルに置いた。ベッティングサークルは、テーブル上の賭け金(チップ)を置く場所だ。真斗が客のベットを確認し、ゲームをはじめる。  真斗が自分に二枚、客に二枚配る。ディーラーは自分のカードを一枚、表向き(アップカード)にするのがルールだ。真斗のアップカードはQ(クィーン)で10だ。  ディーラーの真斗は、17を超えるまでカードを引き続けねばならない。21を超えたら負けのため、ディーラーのハンド(役)のパターンは、17、18、19、20、21の五種類しかない。22以上はドボンだ。 ディーラーは、17を超えた時点で役が完成したとみなし、そのときの手札で勝負となる。 しかも、一枚はアップカードとしてプレイヤーに見せている。ブラックジャックは、プレイヤーが有利な勝ちやすいギャンブルのため、世界中で人気が高いのだ。  真斗の手札は二枚で17。客は三枚目をヒットし19。客が勝ち、配当は倍の二十万だ。  二ゲーム目は引き分けで、勝ち負けなし。  三ゲーム目は真斗が21を超えてバーストし、客が勝った。  真斗は客の賭け方を注意深く観察しながら、五ゲーム目を終えた。  ここまでは、一勝四敗だが、客の賭け方に戦術が無いことは、すぐに見抜いた。  ブラックジャックには、ベーシックストラテジーという基本戦略がある。ディーラーのアップカード(表向きのカード)と手札の組み合わせで、もう一枚引くか否か(ヒットかスタンド)を判断するための戦略が、ベーシックストラテジーだ。確率計算に基づいている。  大勝ちは狙えないが、小さく勝って負けを最小化する、基本戦略だ。  たとえば、ディーラーのアップカードが10で、プレイヤーの手札が15だった場合は、プレイヤーはもう一枚追加だ。 ディーラーのアップカードが5で、プレイヤーの手札が15ならカードは追加しない。プレイヤーは15で勝負することになる。  これが、プレイヤーの手札にA(エース)がある場合は戦いかたが変わってくる。  真斗は昔、ディーラーをしていたころに、基本戦略を頭に叩き込んだ。六戦目以降は、基本戦略に沿ってゲームを進め、じわじわと客の勝ち分を回収した。  客はチップが五十万を切ったところで、ようやく勝ち目がないと気づき、退散した。  閉店し、スタッフが全員帰った後、バックヤードで残務をしていると、佐伯高史(さえきたかし)が入ってきた。 佐伯には、ネットカジノができる漫喫を任せている。もちろんネカジも、バレたら刑事罰を受ける、違法賭博だ。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!