勝者がすべて、敗者はクズ

1/4
129人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ

勝者がすべて、敗者はクズ

「初めまして。麗皇(りおう)です。お隣よろしいですか?」  俺は丁寧に声をかけ、お客様の隣に座った。  初めて来店されるお客様だ。セミロングの黒髪、薄い化粧、モノトーンでまとめた服装。よく言えば純朴、悪く言えばあか抜けない感じ。きょろきょろとあたりを見回している。ホストクラブ自体、初めてなのかもしれない。  テレビや雑誌、Youtubeでも多くの情報が発信され、ホストクラブは身近な存在となった。料理教室やアパレルショップと同じく、女性がふらりと立ち寄る場所となっている。この女性も、「テレビ番組で紹介されてたから」くらいの、ちょっとした好奇心で来店されたのだろう。 「お名前は?」 「か、佳織です!」  緊張している女性の瞳を見つめ、俺はほほえんで言った。 「なんだか初めて会った気がしないね。 あ、お酒作るよ。一緒に飲んでもいい?」  うなづくのを確認して、お酒を作る。といっても、グラスに氷を入れ、焼酎『鏡月アセロラ』をソーダ割りにしただけだ。  初回料金は、フリータイムで5,000円(税別)。焼酎ボトル1本と、ソフトドリンク飲み放題がつく。  初回にどれだけの印象が残せるかで、指名が取れるかどうかが決まる。すでに戦いは始まっているのだ。 「乾杯」  女性のグラスの下半分に、自分のグラスをそっと合わせ、軽く頭を下げてから頂く。こういうマナーは大切だ。ちょっとしたふるまいの汚さで、著しく印象を落とすことがある。  お客様に職業や年収、年齢を尋ねるのはNGだ。  個人情報に関わる話はもちろん、容姿に関する話もあまりするべきではない。ほめ言葉でも、時に地雷になりうる。新人ホストが下手に容姿をほめて、女性の機嫌を損なうところを幾度となく見てきた。 「休日は何をしてるの?」   最初は無難な話題から攻めるのが一番だ。 「友達と買い物に行くことが多いです。渋谷とか」 「ほんと? 俺も渋谷によく買い物に行くんだ。このシャツも、渋谷のBoyhoodっていう店で買ったんだよね。俺たち、買い物中にすれ違ったことがあるんじゃないかな。ね、これって運命だと思わない?」  運命、という言葉を聞いて、佳織のほおがピンク色に染まる。  運命ってのはフィーリングの言葉だから、根拠なんていらない。つい数十分前まで無関係だった二人を結びつける、魔法の言葉。ああ、なんて便利な言葉なんだ、運命!
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!