12人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
息占い
タタン・・ガタン・・タタン・・ダタン・・・・
頭の上を電車が走り去った。
昼は外を歩くとスーツのジャケットを脱ぐぐらい暑いのに、
夕方を過ぎるとかなり冷え込む。
会社を出て、右腕にかけていたジャケットを羽織りながら、
短いトンネルを抜けた。
もう少し歩けば地下鉄の駅がありそこからいつも僕は帰る。
でも今日は土曜日で、少し飲んで帰りたい気持ちが疲れより勝り、
いつもの飲み屋の方へと足を向かわせた。
その店がある飲み屋街へ行く道で、必ず通る大きなアーケード。
いつもはあまり気にならないが、疲れがたまっているせいか人が多い道を通りたくない。
僕はアーケードから離れ、あまり歩いた事のない細い道を通り、飲み屋街の方向へ歩いた。
その道はいわば大人の男が行く店が並び、それぞれの店の黒子が声をかけていた。
「お兄さん、今からは何ですか?キャバですか?」
「とりあえず一度止まって話聞いて下さいよ」
「お兄さん、おっぱいどうですか?可愛い子いますよ」
歩く度、違う黒子が話かけてくる。これならアーケードを通った方がマシだったなと思いながら、
「今から仕事なんで」と断っていく。
スーツを着ているしこれが、一番黒子が諦めてくれる言葉だと知っていた。
大人の道が終わり、何となく目的地の方向へ曲がると地上に立つ
紫色のネオン看板が目に入りこんできた。
「息占い」
最初のコメントを投稿しよう!