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あまりにもあっさりしたもので
逃げなくては。
こんな場所から…
「くそっ!出口は何処に行ったんだよ!」
目の前の壁を殴ったってどうにもならないことはわかっている。
しかしこうせずにはいられない。
こんなことしてる間にも奴は追って来ている。
開ききった口から涎を垂らしつつ、覚束無い足取りで____________________
____________事の発端は何だったか。
そう、そうだ。
知り合いの学者が俺達を呼んだんだ。
「調べがいのある楽しい場所だよ」と。
同じ研究職として、行かないなんて選択肢は無かった。
辿り着いた場所は、マニアが好みそうな廃墟だった。
人はほぼ居ない。
黒猫が横を通り、なあごと鳴いた。
「やぁ、やっと来たね」という声の方を向くと元気そうな知り合い。
廃墟でこんなにも笑顔になれるのかという程の良い表情。
それから、近況報告も兼ねて立ち話を交えた。
そして、本題に入る。
「お前、何を調べるために俺達を呼んだんだ?」
その問いに、知り合いの笑顔が徐々に変わり始める。
恍惚ともとれる、怪しげな笑み。
「それはね……」
「あれー?お客さぁん?」
不意に背後から間の抜けた声が聞こえて肩が跳ねた。
振り返ると、俺達よりも少なくとも10cmは差がありそうな長身の人。
緑色のチャイナ服、若干妖艶さを感じる伏せがちの垂れ目、目元と唇には紅を塗り、淡い色の髪の毛は長い三つ編みにされている。
額には何故か札が着けてあった。
見た目だけではどちらか判別しにくいが、身長からして恐らく男。
至って普通な外見、こんな場所でなければもっと映えたであろう容姿の筈だが、何だかしっくり来ている。
「あのねー、水晶はねー、水晶っていうんだよー。一緒にあそぼー」
自身を『シュェイジン』と呼ぶ男はその見た目からはあまり似つかわしくないような誘いをする。
頭の悪そうな、どちらかと言えば子供じみた。
5歳児が背だけ大きくなったような雰囲気すら感じた。
異様な状況に一瞬身が引けたが、他意を感じない表情に俺達の警戒は少しの違和感を残したまますぐに解けた。
俺達は顔を見合わせる。
「……良いですよ。何をします?」
仲間の一人がそう言った。
男の顔がパアッと明るくなる。
「かくれんぼー!水晶が鬼やるのー!」
嬉しそうに言う男。
少しの安堵すら覚えた。
「わかりました。じゃぁ、俺達4人は隠れます。」
「え?あと一人は誰ー?」
首を傾げる男。
確かに俺達は4人………あれ?
知り合いが居ない。
「おい、博文はどこ行った?」
他の友人も知らないと言う。
「……ぶぉうぇん……」
男が言い慣れてない様子で呟く。
男の周りだけ空気が変わった気がした。
「……あれ、口切れてますけど、大丈夫ですか?」
友人の一人が男に近付く。
確かに、男の口の右端に先程までは無かった筈の真新しい傷がある。
ひび割れ始めた皮膚からキラキラと光る何かが見える。
何故か三つ編みの毛先が緑がかっている。
友人もそれに気付いたようだ。
「…この髪、さっきまでこんな色じゃなかったのに……これも、その傷も、どうしたんですか?」
興味深そうに問う。
男の表情は、笑ってるように見える。
怒っているようにも見える。
何も話さない。
口元の傷の線が伸びてきている。
三つ編みが風も無いのに揺れだす。
何かがおかしい。
「…おい、お前止めとけって……」
そう口にしたときにはもう遅かった。
男の三つ編みの先が四つ又に分かれたと思いきや、友人の頭部を食い千切った。
その内側は獣の口内のように牙や舌があったのを一瞬目で捉えた。
ぐちゃぐちゃの切断面から出る血が、周りの地面や俺の頬を汚す。
骨が砕ける音や、血で濡れた肉が出す音を呆然と立ったままただただ聞いていた。
笑顔の男の口の傷は、切れているのではなく、裂けていた。
三つ編みだったものが友人の身体を丸飲みしている横で男は楽しそうに、しかし先程とは雰囲気が違う笑みで、俺達を見て言った。
「やっぱり水晶、鬼ごっこがいーなぁー。水晶が鬼ねー」
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