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お前だけは一生
「っう…、うわあぁぁあぁぁああぁあぁぁ!!」
叫んだのはもう一人の友人が先だった。
近くに居たらしい鴉がバサバサと羽音をたてて飛び去った。
俺は腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。
完全に飲み込まれた肉塊が行き着く先であろう男の腹はほんの少ししか膨らまない。
興味深い。
殺人の光景が広がっているというのに、俺はこんな状況でも自分が研究職だということを忘れられないのか。
男の爪先が俺に向く。
友人に腕を引かれて立ち上がる。
逃げる直前、背を向ける前にまた男の顔を見た。
男の顔には先程までは無かった、植物の根が張っているようなみみず腫が頭皮にかけてはっきりと浮かんでいた。
「何だよこれ…何だよこれ……!!」
自分の後ろを走る友人は同じことしか言わない。
振り返ると男は歩いて追ってくる。
これならきっと逃げ切れる。
しかし油断は出来ない。
他に人は居ないのだろうか。
人だと思っていた奴が人を食らう化け物だったのだから他が居ても信用ならない。
知り合いは何故俺達をこんな場所に。
____________もしや、彼奴も?
根拠の無い疑いをかけてしまう。
でもどうやって。
こうなると、命の危機だというのに考え込んでしまう。
曲がり角の先に居た人影にぶつかってしまった。
捕まってしまう。
身構え怯えていたが痛みは無く、代わりに「痛いじゃないか」と不機嫌そうな声が返ってきた。
そこには見慣れた容姿の男。
俺の思考の渦中に居た男。
俺達をこんな場所に誘い込んだ張本人。
「博文っ!」
知り合いは不機嫌そうなまま、何食わぬ顔で立ち去ろうとする。
待て、と叫ぶように言い知り合いの腕を掴む。
「お前、どうして此処に居る。どうして俺達を呼んだ。あの化け物は何だ。一人喰われたんだぞ!」
捲し立てるような物言いに気分が悪くなったらしい知り合いが鬱陶しそうに手を振り払った。
「まだ調査途中だよ」とだけ返された。
何となく意味を察した。
「この城塞について調べているんだが、アレにだけどうも酷く嫌われていてね。逃げながらだから植物と鉱物……水銀のモノノケということしかわかっていないよ」
という知り合いの言葉が終わると共に、俺達は絶望した。
対処法すらわかっていないのだから。
アレにだけは、つまり他にもあの男の仲間が居るのだから。
「……まぁ、取り敢えず。影に気を付けると良いよ」
知り合いは友人に近付き、胸部に手を添える。
「君にはもうその必要は無いけれど」
言い終わると同時に強く押す。
友人の身体が後ろへ倒れ始める。
その先に
男が居た。
三つ編みと同じく口のように裂けた頭部が友人をいとも容易く咀嚼していく。
じたばたと暴れさせていた脚は力無く垂れた。
男はもう何も話さない。
会った時の幼稚な口振りが恋しく思えてしまう。
「こうなると暫くは動かないよ。今のうちさ」
知り合いのそんな声が聞こえた。
仲間が喰われたってのに、よくもそんなこと平然と言えるな。
元はと言えばお前が。
お前のせいで
「っお前だけは…お前だけは一生許さないからな…っ!!」
あらゆる憎しみを怒声として吐き出す。
知り合いは何でも無さそうに、寧ろ面白がってるような様子で
「構わないよ」
とだけ言い先の路地へ消えた。
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