<4・いかり>

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 相変わらず真面目な男である。うむ、と究児は考える。確かに物語からイメージを膨らませて作る彼の曲には魅力があるだろう。以前作って聞かせてくれた『ファイナル・ヘブン』を例にするのなら。あの曲が高音から始まってさらに高くなって終わるのは、主人公が“幼い頃の儚い思い出”に縛られていることの証明であったと過言ではない。  子供の高い声。消え入りそうな、今はもういない人の面影。それを、彼はかき鳴らすような高い音とシンプルな和音で表現してみせたのである。中盤に低い音でじっとりと打ち鳴らすのは、主人公の少年が現実を見、我に返る刹那を表現している。最終的に転調した高音で終わってしまうのは、彼が現実よりも理想を選んでしまい、“今”の憧れの人を受け入れることができずに斬り殺してしまった悲劇を演出しているとうことだろう。  自ら殺してしまった、“最後の天国”。短い一曲の中で主人公の想いを表現し、濃縮できたのは。そこに、彼が魂をこめた物語があったからこそというのは間違いあるまい。そう、それは事実、であるのだが。 「昔は、他の人が作った物語を利用していたって言ってただろ?童話とか、アニメとか、ゲームとか」  一応、提案するだけしてみることにする。スランプで一音さえも決まらない状況になるよりは、別の版権の“二次創作”をする方がまだマシなのではないか。  既存のメロディーをアレンジしたりなどしなければ。文字や絵とは違い、曲名さえ誤魔化せば音符だけの“二次創作”が、著作権侵害になる可能性は限りなく低いからだ。 「今回も、好きなアニメとかのイメージを借りて作ってみるっていうのはアリなんじゃないのか。歌詞があるものでもないし、曲名だって正直……よっぽどの固有名詞でも使っちまわない限りは元ネタがバレることもないだろ?」 「……それも一理ある。でも、それだと誰かに“何をモチーフにして曲を作ったか”を正々堂々説明しづらい。コンテストなら尚更、そこで隙を作りたくない」 「あー……まあ、そうか。そうだよな……」  言われてみれば、その通りだ。作曲のコンテストというのがどういうものなのか自分にはよくわからないが、きっと“何をイメージした曲か”なんてことはどこかで解説したり、説明を要求される場面もあるのだろう。むしろ、そのイメージしたものを表現しきれているか?が問われるポイントであるのかもしれない。なら、版権を使うのは、アウトでなくても避けた方が無難ではあるだろうか。
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