<4・いかり>

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――しかし、物語……物語か。うーん、こればっかりは……なあ。俺、文才なんてもんもねーし……。  二人きりの音楽室。縁が鍵盤を叩かなければ、この空間に響くのは自分達の息や衣擦れの音、小さな足音ばかり。耳をすませたところで響くのは、朝練をしているサッカー部や陸上部の掛け声やボールの音のみだ。  静かがすぎる、と不意に思った。なんだか急に寂しくなってくる。静かになってしまうのは、縁が音を鳴らさないだけではない。彼が、いつも以上に無口になっているからだ。元々究児の方が圧倒的に話す方ではあったけれど、ここのところの縁は以前にも増して口数が減っている。 「……もしかして、スランプだけの問題じゃない?」  縁の、白い指の先。つるりと綺麗に整えられた爪の先が、震えている気がした。  手が示すのは人生や過去ばかりではない。今の健康や、精神状態も含まれる。今の彼は――まるで。何かに怯えて、立ち止まってしまっているような。 「……できなくなるかもしれない」  そして、究児の問いに縁は。 「作曲部の……活動。この時間が、なくなってしまうかもしれない」 「へ?」  驚きの事実を口にした。  作曲部が、なくなる?一体どういうことなのか。作曲部は――いや、一人だから同好会という扱いではあるが。そもそも縁一人だけの部活で、他に部員はいなくて。それでも成り立つ同好会として今までやってきたのではなかったのだろうか。 「誰が、言い出したのかはわからないけれど。……音楽室を、朝夕一人で……僕一人で占拠するのはどうなんだ、っていう話があったらしくて。他に音楽系の部活動もないからいいかと思っていたけれど……それでも、権利として本当にこれでいいのか、みたいなことを言う人がいるらしくて。部員も、僕しかいないし。活動実績があるわけでもないし」  俯く縁の顔は見えない。活動実績なんか、できたばかりの部活動にあるはずがないではないか。そう言いかけて、究児は気づいた。というより、筋が通ったというべきか。彼がスランプに陥っている本当に原因は、もしや。 「……コンテストで、成績を残さないなら。作曲部として、音楽室を使うのはダメだとか……まさかそんなことを言われたのかよ。先生に?」 「……」
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