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『どんな音楽が出来るのかは、正直僕にも作ってみないと全く予想ができないんだ。作っているのは僕だけど、ゼロからスタートするのは僕自身も同じ。欠けている音符を100になっている僕の中からインストールするじゃなくて、音を並べるのと一緒に僕も0から100に近付いていく……みたいな。うまく言えないけれど、そんな感覚なんだ』
鍵盤を一生懸命押して次の“音”を探しながら、彼は言う。
『多分今回の曲も、僕が一番得意なヘ長調か変ロ長調のどっちかになるとは思うんだけど。それ以上はまだ、決まっていない。イメージの元にする物語もまだぼんやりしているから。だからその……究児さえ良ければ、手伝って欲しいんだ。物語のプロットや……そのとっかかりになるヒントが欲しい』
あの縁に、自分が必要とされた。あれだけの情熱と才能を持った彼に、自分が。それがどれほど言いようもなく幸せなことであったことか、きっと誰にも分かるまい。
同時に、少しだけ不思議に思ったのである。
何故彼は、出会ってからさほど時間も過ぎていない自分にそこまでの仕事を任せてくれるのか。音楽部の命運をかけたコンテストの曲作り、余計な雑念など入れたら足を引っ張るだけだというのに。
確かに究児は彼を尊敬しているし、究児の曲作りを側で見つめ、踊る指先を眺められるだけで十分に幸せだが。それはあくまで、究児の側の都合だ。自分はといえば彼に、彼のために何かをしてやれた覚えなどないというのに。
だから尋ねた。一体どうしてそんな、当たり前のように自分を信じてくれるのか、と。
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