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ここに来て、まだ一時間もしていないだろう。しかし時間の感覚は全くなくなっている。
白の面積が大きいのに、病院のような威圧感が全くない。
子供の頃から病気がちだったせいで、白の多すぎる内装に構える癖がある夕は、高い天井と、行き交うスタッフの笑顔をまた見て、観光宿泊施設なのだから病院のようでは駄目だものな、と思うのだが、実際都内でホスピタリティを売りにしている場であるにも関わらず何だか近年増えたお洒落歯科みたいな、ちっとも素敵でない空間はよくある。何かを間違えているのだろうが、何をどう間違えているのかはわからない。
そういう所と、根本的な考え方の違う人達の作った建物だという事は感じられる。
北海道に来たのはいつ以来か。
父の好きなイトコだという、東京の集まりに顔を出さないおじさんが脱サラして移住してからずっと訪ねたかったのだと父が言い出し、母と夕は巻き込まれて来た夏が昔あった。
特に楽しくはなかった。一族のはぐれ者を満喫している、年の割に皺の多い父親のイトコは煙草を吸う人だったし、それで煙かったし、案内してくれた森林も特に感動的でもなかった。
そのおじさんになぜか思い入れの強いらしい父だけが三日か四日満喫した旅だった。
大体、母と夕はジャガイモが嫌いなのだ。
父がイトコおじさんにその話をすると、その人は「贅沢病だねえ」と、赤紫の指でおでこを擦りながら言った。
その人に多分憧れている父は何度も頷いて「芋類を嫌うなんて人間としておかしいよ」と言った。
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