カラフルな世界

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 私はこの世界が嫌い。  色が無い。  どこを見ても、白、白、白・・・。  目を覚ましたら、白い世界が目の前にある。  見渡す限り白い。  この世界は白い。  この世界の人は、皆自分のことしか考えない。  他人なんてどうでも良い。  自分が幸せなら、それで良い。  みんな、そんなことを言ってる。  優しいひとなんていない。  だから優しさに触れたこともない。  泣いたことも無い。  笑ったことも、怒ったことも・・・。  まるで感情が無いみたい。  いや、そんなことはない。  だって、苦しんでる人を見ても何もできないことが、悔しいもん。  白いのに黒い世界。  私はこの世界が嫌い。  私は自分も嫌い・・・。 ーーーーー  これは、ある女の子の主張だ。 何を言ってるんだろうと思った。 私たちが馬鹿なのか、この女の子が馬鹿なのか。 まあどうせ、女の子でしょ。 私が馬鹿なわけないし。 どうでもいい、聞かなかったことにでもしよう。 この女の子が傷ついたとしても、私には関係ないんだし。 こんなものに関われば、めんどくさいだけ。 いきなり関わったら、らしくない、とか言われそうだし。 それに相手するのもめんどくさいし。 ほっとこう・・・。 ーーーーー  これはある日のこと。 「なぁ、ちょっと付き合えよ」 「どこに」 「え~?遊び~?」 「やだよ。何すんだよ」 こんな会話はよくする。 いつも誘ってくる。 ついていったことはないけれど、ある子によると、絶対に行かない方がいいらしい。 何でだろう。 めんどくさい。 「行こーぜぇ?なあ?」 「行かないっつってんでしょ、ウザいなぁ」 「あぁ、ふざけるなよ。なら、無理矢理連れて行くまでだな」 そう言われても、私は別に気にする必要ないと思った。 どうやって連れていくの、こいつは馬鹿なの。 ただ、そう思っただけだった。 ーーーーー  学校からの帰り道。 誰かに後をつけられている・・・? まぁ、家はすぐそこだし、気にする必要なんて、な・・・ 「んー、ん、ん!?」 後ろからいきなり口を押さえられた。 何、やめて、怖い・・・! 「ーーー」 耳元で何かを囁かれる。 その言葉に、私は恐怖を抱く。 嫌だ、嫌だ! 怖かった。 凄く怖かった。  だから、泣いた。  初めて私は、怖くて泣いた・・・。 ーーーーー  目を覚ますと、そこは家だった。 ただし、知らない人の。 周りを見ると、青や黒色のものがたくさんある。 男の部屋? ガバッと私は起き上がった。 いや、起き上がれなかった。 目だけで体を見ると、私は下着姿で体を縛られていた。 「いや、助けてー!」 喋ることはできた。 でも、体を動かせない。 怖い、辛い、また涙が出てくる。 今まで泣いたことなんて無かったのに、今日だけで二回も泣くなんて。 「あ、目覚ましたか。うるさいから、叫ぶなよ」 いきなり声が聞こえた。 ビックリして、涙も引っ込んだ。 そこにいたのは・・・。 「やっぱりあんただったのね!」 学校で『ちょっと付き合ってよ』と言ってきた、中村だ。 「ちょっと、なんでこんな状態にされなきゃいけないの!?縄をほどいて!」 ほどいてくれるわけがないのだが、何かを言ってないと、もう一回泣きそうだから。 「叫ぶなって言ったじゃん?そんなことすると、佐奈と同じようにするよ?」 佐奈? なんで佐奈が出てきて・・・ あぁ、そうだ。 私に、中村に絶対についていかない方がいい、と言ってくれたのは佐奈がじゃないか。 なんで? 私なら、『私ばかりこんな思いをしないといけないのは、最低。他の人も、同じ思いをすればいいんだ』って思って、誰かに言う。 「ついていってら、凄く楽しいよ」 なんていう嘘を。 佐奈・・・。 佐奈・・・! 「・・・る・・・ない・・・」 「え?」 「許さない!佐奈に何をしたの!」 初めて怒った。 私はなんで、他人のために怒っているのだろう。 自分のためにさえ、怒ったことがないと言うのに。 「その状態で、君に何ができる?」 その通りだ、何もできないかもしれない。 でも、その中から少しでもできることを探したい、そう思った。 私らしくないな。 でも、佐奈は、私のためにああ言ってくれたのかもしれない。 「君には何もできないよ。それに、誰も助けに来ない。この場所を知ったとしても、君のことを助けに来る人なんていないよ。君は散々、周りの人に冷たくしたからね」 全てが当てはまって、何も言えなかった。 「そうね、だから、せめてもの罪として、あなたがやろうとしていることに抵抗はしない」 そう、言ったのに。 「抵抗はしない?なにそれ、つまらないよ。俺は、嫌がって逃げようとするところを捕まえて、必死にあがく姿が見たいんだ」 「っ!」 なんてやつなんだ・・・。 「なんてやつ、って思った?でも、君も同じようなものだよ。自分のことしか考えず、他人が困っていても知らないフリ。最低じゃないか」 なんで、そんなこと言うの。 その通り、その通りだよ・・・。 でも、それを言われて悲しいだなんて・・・。 ほんと、私らしくない。  バンッ! いきなりそんなものがしたもんだから、私はすごくビックリした。 体が跳ねると、縄でつっかえて痛い。 「誰だ!」 中村が叫んだ。 本当、誰だろ。 中村の仲間が増えたのかな・・・。 あ、なんかだじゃれみたい・・・。 いや、そんなこと言ってる場合じゃないんだけどさ・・・。 はあ、もう逃げる気もしない。 「誰だ、お前!出ていけ!」 あれ、仲間じゃないの? なら、誰なの? 期待した、もしかしたら助けに来てくれたのかも、って。 でも、そんなわけないよね。 いきなりやって来た人の姿は見れないし。 「姫野さんを、助けに来たの!」 ・・・私? 私を助けに来た? はっ、嘘でしょ。 ただの冗談、冗談。 っていうか、誰なのよ。 「出ていけ、通報するぞ!」 「それはこっちのセリフ!」 「苦しんでる人を見ても何もできないことが悔しかった!姫野さんは、そんなつまらない話を聞いてくれた!」 「っ、そのセリフ・・・」 どこかで聞いた。 そう言えば、この声も聞いたことがある。 「困っている人を助けるのは当たり前です!姫野さんを解放してあげて!」 あぁ、少し幼い声で、こんな優しい子はあの子しかいない。 この世界も自分も嫌い、何て言っていた花ちゃん・・・。 なんで・・・。 私は優しいあなたに冷たくあしらったのに。 なんで? しゃべれるはずなのに、声が出せない。 ピーポーピーポー。 いきなり、パトカーの音が鳴り響いた。 「あなたは終わりです」 なんでかな。 そう言った女の子が、少し不適に笑っている姿が想像できてしまった。 「待ってください、今ほどきますから!」 ありがとう・・・。 声にならないお礼を言う。 本当に、ありがとうね・・・。 ーーーーー  その日の夜。 私は今日のことを思い出していた。 ポロッと、一粒の涙を流す。 怖かったから。 それもある。それもあるけどね、本当はね、 嬉しかったから。               私のことを思って言ってくれた“友達”の佐奈。 私のために勇気を出して助けてくれた“友達”の花ちゃん。 本当に、本当に、ありがとう・・・。 大好き・・・。 ーーーーー  後日。 「私、少しでも姫野さんの役にたてましたか?」 そう訊ねてくる花ちゃんを、私はすごく可愛く思う。 「もちろんだよ、ありがとう!」 そう言ってから、私はフフッと笑った。 だって、こんなこと言うなんて、本当に、 「らしくない」 でも、こんな私もいいかもね。 ーーーーー 「こんな世界嫌い」  そう言っていた花ちゃん。  実はね、私も嫌いだったんだよ、こんな世界。  今さら気付いたなぁ。  目が覚めたら白い風景が広がっていて、つまらない世界。  でもね、今日の世界はね、なんだかカラフルだよ。  私が真っ白だと思っていた世界はね、本当は色があったんだね。  私が勝手に、思ってただけなんだね。  私はこの世界が、少し好きになったよ。  白いのに黒い世界。  そう、今も少しは思ってるんだけどね、こんな世界も変えていけたら、なんて少し思ってる。  いつかは、カラフルな世界になればいいなぁ、なんてね。    ここは、カラフルな世界。  喜怒哀楽がはっきりしている世界。  昨日はたくさん笑ったよ。  一昨日は泣いちゃったよ。  でもね、嬉しいことがあったんだ!  さっきね、少し怒っちゃったんだ。  でも、仲直りしたよ。  私は、この世界が好きだよ。  友達、家族、恋人・・・。  大好きな人がいっぱい!  温かみ、優しさ、楽しさ・・・。  いつも感じてるよ。  このカラフルな世界が、ずっと続いていきますように・・・。
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