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〈第八章武士と愛と〉
雨の日に結ばれ男と女の一線を超えた二人
-合意の上とはいえ、鶴姫にとって、男を知ってしまった現実は、やはり心にも身体にも衝撃的だった-
湯殿で、身を流し清める鶴姫。。
自身の身体が今までと違うのを感じる。。
女になりゆくこの身体が。。とてつもなく恥ずかしくて。。
安成に愛される毎に、自分が武士でなくなってしまうような気がする。。
堪らなくて頭から湯を思いきりかぶった。
…このままでは。。少し距離をおかねば…
愛されて幸せな筈なのに、複雑な思いに苦しんでいた。
後日、鶴姫は庭で弓矢の稽古をしていた。
…調子が悪い。。
得意な筈が。。
こんなに外してばかり!!
やはり、あの日から何をしても。。…
苛立っていた。
「姫様、いつからそんな構えになられたのですか」
背後から男の声がした。
振り向くと、安成だった。
「安成。。」
鶴姫は近づいてきた安成から、よそよそしく目線を外した。
「こう構えねば、なりませぬ」
安成は、鶴姫の背後から抱きしめるようにして、体制を立て直した。
-抱かれている余韻が甦る-
鶴姫の全身が、一気に熱くなった。。
「。。分かっておる」
鶴姫は顔を上げずに呟いた。
「。。姫様。今宵、私の傍にいてくれませぬか」
安成は、鶴姫の耳もとで誘いをかけた。
「いや。。今宵は。。」
鶴姫は、そっと身を引き離した。
「なりませぬか?」
「あぁ、すまない。。」
鶴姫は背を向けた。
「そなたにも色々ありましょう。。。」
「。。。」
「やはり、あんな事は。。私を嫌いになられましたか。。」
「いや‼安成の事は、愛してる‼」
「では、何故?」
鶴姫は毅然とした口調で告げる、
「安成。。私たちの仲は。。あぁなったが、所詮私は女子を捨てた武士なのじゃ。
三島を守る武士であることを、忘れてはならぬ。こんな私に相曽がつくなら他の姫君を選ばれるがよい。」
「三島を守る武士。。忘れてはおりませぬが。」
…鶴姫様、一体何をおっしゃっているのか…
「やはり。。私は。。裸になって。。
あんな事。。恥ずかしくて。。武士として駄目になってしまいそうなのじゃ。。おかしくなってしまいそうなのじゃ。。」
…他の姫君となんて、思ってもいないくせに…こんなに思いにかられてしまう自分が堪らなくて
鶴姫の頬に涙が一筋溢れ落ちた。。
…女子は、何と複雑な。。難しいものなんじゃな。。私は。。鶴姫様には変わらぬ真剣な思いなのに…
安成は、途方に暮れた。
「私も。。昨日、真之丞と手合わせをして初めて取られてしまいましたが。。」
「私たち。。距離を置かぬか?互いに駄目になってしまう」
「いえ、駄目になんてなりませぬ‼互いに初めての経験でしたから、暫くは、仕方ないのではありませぬか?自ら切り換えるしかないのです。」
「。。でも、そなたの傍にいたら。。またあんな事を。。やはり恥ずかしいのじゃ。
堪らないのじゃ。。」
「私は、男ですから、その気持ちはないとは偽れませぬ。ですが、そなたの傍に一緒におりたいのです‼」
「安成。。。」
安成は、何か閃いたように語り出した。
「では鶴姫様‼今宵は浜辺で色々話をしませぬか?そなたの了承を頂けるまで、あんな事は致しませぬ!」
「話を。。?」
「今宵、すこしですが、そなたを驚かせたいのです。」
「驚く何があるというのじゃ?」
「それは、今宵のお楽しみですよ!」
安成は、ニッコリ微笑んだ。
…私から。。初陣を誘い、合意の上で抱かれているのに。。私の態度は、多分安成を傷つけてしまっている。。でも今の私には。。…
日が暮れてから、二人は墜ち合った。
「今宵は、浜辺まで真っ暗ですから。。」
安成は、そっと手を繋いできた。
-手の平から伝わる安成の手の温もり。。
何とも言えぬ幸せなな気持ちが溢れ
胸が熱くなっていた-
浜辺が近づいてきたようだ。
「私が良しと言うまで、眼を閉じていてくれませぬか?」
安成は、言い出した。
「えっ?眼を?何故じゃ?」
「とにかく眼を閉じていて‼」
鶴姫は、言われるがまま眼を閉じて、手を引かれ歩き続けた。
浜辺に着き、砂浜に揃って腰を降ろした。
-ザザ。。。波音が。。
心地よい夜の海風が。。
二人を優しく包む-
「。。安成、まだか?」
「では、顔を上げて眼を開けてください‼」言われる通りに、眼を開けた。
-目の前には、落ちてきそうな満天の星空が広がっていた-
「な!!何と!!」
「今宵は、月がない分、最高の星空です。」
「綺麗じゃ。。見事じゃ。。」
-ずっとこの島にいながら
この浜辺に来ていながら、初めて見る見事な星空に感激するばかりだった-
安成が、隣で語り出した。
「男は、女子の気持ちが分かってあげられぬ事があります。して女子も男の気持ちが分からぬのも同じです。誰しもが、互いにそれを乗り越えて、添い遂げていくのだと思います。」
「安成。。。」
「他の姫君となんて、ホンにもう言わないでください。私は哀しくてなりませぬ。
して、女子を捨てたとも、思ってはならぬ。そなたは 、立派な武士ではあるが、私の大事な女子なのです。」
「安成。。。」
「。。男女の営みの事は、気持ちが向いてくださるまで待ちます。もしや。。下手くそで不愉快な思いをさせてたなら、本当にすまぬ。そなたの嫌がる事などしたくありませぬから。」
…下手くそ?
そんなの分からぬけど。。
何だか。。そんなに辛い思いを。。
合意の上で結ばれたのに。。我儘なのか?…
「安成。。ごめん。。」
鶴姫は安成の膝の上に顔を伏せた。
「謝らなくてよいのです。営みだけが、私たちの繋りではありませぬ。この星空をいつかそなたと見たいと思っていましたから。今宵、やっと叶い嬉しいのです。」
安成は鶴姫の頭を優しく撫でていた。
降り注ぐ星空を眺めながら、互いの子供の頃の話で盛り上がった。
実は安成は、幼少の頃は武士になんてなりたくなかったのを知った。以外だった。
ずっと一緒にいながら互いに、まだまだ知らないことが沢山あるのだなと思い知った。
浜辺で波音の子守唄を聴きながら
安成の胸に抱かれていた。。
「安成。。私の我儘で。。そなたを傷つけたな」
「私も、同じなのですよ。。すまなかった」
「いえ。。安成は。。」
「一緒にいれば、色々ありまする。
この先だって何が起こるか分かりませぬ。
それは、それで楽しいではありませぬか‼」
「安成。。。」
「姫様、私たちは、この無限大の空の下で出会って、こうして一緒におります。嬉しくて堪らないのです。」
「安成。。私だって。。。」
…そなたの傍にいられて嬉しくて堪らない…
鶴姫は、この果てしない満天の星空のような広い安成の心と愛情に胸が、いっぱいになっていた。
…私は。。そなたと一緒に生きたい。。
そなたの女として生きてゆきたい…
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