〈第十一章急変〉

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〈第十一章急変〉

二人が三島に戻ってから、ほどなくして瀬戸内の状況が急変し始める。。 再び戦乱の暗雲が立ち込めてきた。 忍びが陣代安成にまず告げた。 大内軍は軍将に、猛将陶晴賢を仕立て 見たことのない大戦艦を造船しており 今まで以上の大量の戦隻、兵数を揃え準備完了次第、この三島に襲い来るであろうと。 -大内軍と今まで以上の大きな戦が始まるのか-安成は、武者震いをした。 愛する鶴姫との結婚が決まった矢先、幸せから、一気にどん底に突き落とされた。。 二人は三島に戻ってから、安成の部屋で一緒に過ごすようになっていた。 安成は重い気持ちを抱え、鶴姫の待つ部屋に戻った。 「今宵、何だか遅かったではないか?何かあったのか?」 「あぁ。。城も空けていたし、そんな日もありまする。。」 安成はやるせない疲れた表情をしていた。 …ただ事ではないな… 武将である鶴姫は、当然感じとった。 安成は、座っている鶴姫の背後に座り 包み込むように抱きしめてきた。。 「安成。。。」 鶴姫は安成の胸にもたれた。 -鶴姫も軍将だ。戦について話をしなければならないが、今は二人だけの時間。。 戦の事も何もかも、ひとときだけでも忘れていたい- 安成は、明日に話そうと決めた。 「安成?母上から頂いた勝利の御守は、どうされた?私は自分の甲冑に早速着けたぞ!」 鶴姫は、遠回しに戦の話題に持っていこうとした。 「私も、早速甲冑に着けましたよ!ほら‼」 床の間に置かれている自身の甲冑を、指差して、安成の表情は少し和らいだ。 「安成‼そなたは三島で一番の武将黒鷹じゃ‼して我は三島明神様の遣いじゃ‼して母上から賜った勝利の御守!この先、いかなる事があろうとも大丈夫だ‼私はそう信じている!」 「鶴。。そなたはホンに強いな‼誠に勇気が貰える‼」安成は頼もしそうに鶴姫の顔を覗き込んだ。 「だって、今宵の安成、柄にもなく雀のようじゃから」 「二人の時は、雀でも許してくださりましょう?」安成は、頬を鶴姫の頬に寄せて甘えた。 「私を翻弄させて、どうする?」 鶴姫は、狂おしい眼差しで見つめてくる。 「さて、今宵はどうするかな?」 「何だか、いやらしいの‼」 「鶴こそ、私を翻弄させてくれてるぞ?」 …鶴。。今までとは違うのだ。。でも今宵は言えぬ。。最早、今宵が二人で過ごせる最後の夜になるやも知れぬ?… 鶴姫を抱きしめる安成の腕に力が、こもった。 「して?次はいつ、別名に帰れそうじゃ? その日には私たちの祝言を挙げられる‼」 この問いに、安成は返事を詰まらせた。 「やはり大祝家に婿入りは、気が乗らぬのか?。。」 鶴姫は不安気に安成を見つめた。 安成は慌てた。 「いえ‼とんでもない‼婿入りさせて頂きます‼私は、鶴の傍に生涯おりまする‼ きちんと祝言も挙げまする‼ ただ。。祝言を挙げる日にちは、 もう少しお待ち頂けませぬか?」 安成は哀願の眼差しで鶴姫を見つめた。 「安成。。悪かったな。。今は陣代の任務を優先せねばな。。」 「鶴。。。不安にさせてすまない」 「やはりそなたは武将黒鷹じゃな‼」 「そなたと、二人の時は、戦など忘れているつもりなのですが。。」 「私は、どんなそなたの時も、傍におるから。。」 「鶴。。。ありがとう」 「いや、安成?改まって。。なぁ」 鶴姫は、はにかんだ。 暫くは会話に興じていたが 夜も更けて 今宵も互いが欲しくて、触れたくて。。 …いつ最後の夜になるもおかしくはない。。 愛しい鶴。。惜しみなく、そなたを感じたい… 「鶴。。愛してる。。」 「。。安成、愛してる。。」 安成は、顔を寄せて愛しそうに指先で 鶴姫の頬から口唇を撫でてきた。。 鶴姫には、この求められる瞬間が まだ恥ずかしくて少しだけ怖い。。 着物の胸元に、手を忍び込ませてきた。 「安成。。ここのところ毎晩じゃな。。」 「早う、母上様に、私たちの子を見せてあげたいですから。。」 「もう。。安成ってば。。」 熱く重なり合っていた口唇が、鶴姫の首筋を這い始めて。。。 着物の裾がはだけ、腰巻の紐に手が、掛かると。。 鶴姫が熱い溜息をつき 二人の身体は床の上に崩れた。 「安成。。灯火を消して。。」 「今宵は。。消さずして。。よろしいですか。。」 「。。仕方ないな、恥ずかしいのに。。」 「そなたは。。綺麗過ぎます。。 他の男には絶対に見せてはなりませぬ。。」 「もう。。誰にも見せぬ。。」 強く絡み合う指先。。 互いの名を呼び合いながら ふたつの身体がひとつになり。。 ふたつの魂までが溶け合ってゆく。。 二人の身体は抱き合ったまま、海の底へと深く深く沈んでいくかの如く。。 少しだけ苦しくて。。私たちは、何処へ行ってしまうのだろう。。 供に気を失い、幸せな眠りについた。。。 やがて安成が、目を覚ました。 鶴姫の寝顔を見つめていた。 …鶴。。いつまで、こうしてそなたの傍にいられるのだろう。。。… そう思ったら、涙が溢れてきた。 嗚咽を必死に殺していた。 耐えきれず、大粒の涙が、鶴姫の頬に落ちた。 鶴姫が、気がつき目覚めた。 「。。。安成?」 安成は、咄嗟に背を向けた。 …安成。。泣いておるのか… 鶴姫は起き上がり安成の背に優しく話しかけた。 「安成。。そなたはいつも泣いてる私を抱きしめてくれたな。。兄上が亡くなった時。。そして。。初めて抱いてくれた時。。 今宵は、私がそなたを抱きしめる。 黒鷹とて泣いてもよいのじゃ。」 「つ。。鶴。。。鶴っ‼」 安成は、感極まって起き上がり鶴姫に抱きついて胸の中に顔を埋めた。 鶴姫は、声を挙げて泣き続ける安成を ずっと抱きしめていた。。 翌日、鶴姫は、大内軍との大戦が始まる 現実を聴かされた。 やはり。。。と納得しつつも …私たちは、この先一体。。… 鶴姫も幸せの絶頂から、一気にどん底に突き落とされた。。
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