〈第十二章第三次大三島合戦〉

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〈第十二章第三次大三島合戦〉

武装した鶴姫と安成は、三島の浜にいた。 大内軍の大戦艦と尋常でない数の戦隻は 大崎島の近海まで迫っていると 警護台から知らせが入った。 鶴姫は、勇ましい女武将の表情に 安成も、二人の夜の涙は何処へやら まさしく武将黒鷹に戻っていた。 二人の甲冑の胸には、母上妙林から賜った、赤、青の御守がつけられていた。 互いの御守を握り合い、無事と勝利を誓い合う。 -ホラ貝が吹かれ、出陣太鼓が鳴り響き 大内との大戦の火蓋が切られた- 「我ら三島水軍、出陣じゃ-----‼」 安成の雄叫びと供に、三島水軍の戦隻群が大崎島、御手洗沖に向けて出陣した。 鶴姫と安成は、呼吸を合わせ舟を操り 襲い来る数々の敵舟に火矢や炮烙を撃ち込み 手に届く敵兵を斬り倒し 海中に突き落としてゆく。。 しかし敵方の攻撃も、尋常でなかった。 二人は、かすめた火矢や炮烙の破片で負傷しながらも必死に応戦してゆく。 二人の舟が大戦艦に近づいたが、その巨大さに圧倒され言葉を失う。 「怯むなっ‼」 二人は同時に声を、掛け合う。 二人が大戦艦を見上げると、船上に立ちはだかる一人の男の姿を目にした。 立派な兜に甲冑を見にまとい、見たことのない立派な鉄砲を構えていた。 「あれが猛将陶晴賢か。。」 「お初見、光栄じゃな」 船上の男が見下ろし、二人に向かって叫んできた。 「貴様が三島水軍の総大将かっ?」 「いかにも‼三島城陣代越智安成じゃ‼」 「お前が陶晴賢かっ?」 鶴姫が叫んだ。 「その通りじゃ‼貴様らは夫婦か?夫婦仲良く出陣とは、三島水軍はお気楽なもんじゃなっ‼」 陶は、船上から近づいてきた三島水軍の戦隻軍の中でも、息の合った抜群な舟の操り、 見事な応戦の二人の舟を、一際違うと観察していたのだった。 二人は陶晴賢に向かって睨みをきかせたが 陶は不適な笑みを浮かべ、銃口を二人に向けた。 -危ない‼- 銃声と供に、咄嗟に安成は、鶴姫をかばって舟底に身を伏せた。 二人の舟は転覆寸前なほど大きく揺れた。 「鶴っ‼大丈夫かっ?」 「安成こそ‼」 二人は撃たれていない。。のを確認し再び船上を見上げると、既に陶晴賢の姿はなかった。 まさか夫婦に見えた若い二人に、情が絡むわけはない。 …いくら優秀な武将夫婦だろうが、我らには敵うわけがない。我が手を下さずとも いずれは仲良く揃って首を取ってやろうぞ… -からかいの威嚇射撃だった- 「撃てばいいものを。。」 「完全に馬鹿にされたな。。。」 深い溜息をつき、二人の舟は、三島に引き揚げた。 三島水軍の応戦は、大戦艦の侵略を、くい止める事も出来ず、引き揚げた味方の戦隻、兵は激減していた。。 二人は、三島城に戻り傷の手当を、し合っていた。 「鶴、この薬草は、しみますが効能は確かですから我慢してくだされな。」 安成が、鶴姫の手当を施した。 「何のこれしき、大丈夫であるぞ!」 …うっっ‼やはり強烈じゃな、この薬草… 鶴姫は、悶絶を必死で堪え、平然を装っていた。 「鶴?大丈夫なのか?かなりキツイ筈だけど。。」安成は心配そうに顔を覗きこむ。 …あぁ、これだから可愛くないのじゃな。。この人の妻になるというのに。。何か可愛くとやら、甘えるのが無理なのじゃ… 「では次、安成の手当じゃ。」 「はい。頼みまする。」 「しかし互いによくこれだけの傷で済んだな?」 「それは、そなたと私だからです。」 自信ある表情で、鶴姫を見つめた。 しかし安成は、先ほどの戦を思い出していた。 …見たことのない巨大な大戦艦。。 立派な鉄砲。。。 持久戦に持ち込まれたら、我らは壊滅するだろう。。 立ち向かえる手段とは。。 鶴。。私たちは、もういなくなるかも知れぬ?。。… 安成が茫然と考え込んでいる隙に 鶴姫は薬草を混ぜ合わせていた。 今度は、鶴姫が安成の手当を施した。 「ぎゃっ‼鶴っ‼」 安成が叫んで飛び上がった。 「ま!混ぜたのかっ⁉」 「混ぜた方がより効くのじゃぞ‼」 鶴姫は、しみすぎて悶絶する安成の様子を見て笑い転げた。 「鶴には可哀相だから、一種にしたのにっ」 「雀‼泣くがよい‼」 「もぉっ‼全くそなたと祝言を挙げたら 私はどうなってしまうのやら。。」 安成は手で顔を覆い、泣いている振りを ふざけて続ける。 「私は、戦よりも手強いぞ‼安成、覚悟じゃっ‼」 鶴姫は、刀を突きつける振りをする。 「ふふっ。。そうかな?私は、そなたの弱味を握っておるけど?」 安成は、いやらしい表情で鶴姫の顔を覗き込んだ。 「何じゃ?私の弱味とは」 「では、攻めてよろしいのか?ふふっ」 …求めてくるのか?… 鶴姫は、顔を赤らめながらも知らん顔をしてテキパキと手当を進めた。 「ダメじゃ。。そんなこと。。あっ。。」 安成は、独り言を呟き、まだニヤけている。 鶴姫は、一瞬形相を変えて包帯の上から傷口を、ひっぱ叩いた。 「痛ぇっ‼」 悲鳴を挙げてうずくまった。 …鶴には敵わぬなぁ… 安成は苦笑いした。 手当が終わると、安成は態度を変えて語り出した。 「鶴。私は、実は先ほど、驚いたのです。」 「何を驚いた?」 「陶晴賢です。私たちを見て夫婦か?と」 「あぁ。私も驚いた。最早、夫婦に見えるのかと」 二人は見つめ合って照れた。 「鶴、真剣にです。私は早く海を沈めて そなたと祝言を挙げたいのです。 待ち遠しいのです。」 「安成、私も同じ思いじゃ‼ まぁ、可愛くない奥方じゃけどな!」 「鶴、私には、充分可愛い奥方になられますよ。」 「。。ひっぱ叩いても可愛いのか。。 私の勝利じゃな‼」 そう、呟きながら 鶴姫は、不意に安成の胸に飛び込んだ。 …安成。。何故、そんなに私のすべてを受け止めてくれるのじゃ… とてつもなく、幸せで切なかった。。 安成は、鶴姫を抱きしめた。 互いの身にまとっている甲冑が、邪魔で虚しい。。 鶴姫は、安成の戦の緊張をほぐす思いやりで呟いた。 「。。今宵は抱いてくれぬのか?。。攻めてくれていいぞ。。。」 「鶴。。。今宵は甲冑を脱ぐのが大変ですね‼」 安成は悪戯っぽい笑顔で返した。 「安成!滑るか‼」 「して暫く湯にも入っておらぬ。汚いですよ?」 「確かに‼」 二人して腹の底から笑い合った。 笑いが、おさまると 鶴姫は、しんみり呟いた。 「。。。時間が止まればいいのにな。。 ずっとこうして傍にいたいのじゃ。。」 頬に涙が溢れた。 「鶴。。私も同じ思いです。」 安成は指先で優しく流れる涙を拭った。 「私たち。。この先、どうなるのじゃろう」 鶴姫は珍しく不安そうに呟いた。 「強気な鶴は、どうした?」 「安成。。。」 「私たちは、何があろうとも離れませぬ‼ 大丈夫ですから‼」 -二人は、どうなろうとも何処までも あの世だとしても、この人と一緒に行きたいと思った- 「もし。。な。あの世に行ったとしても 傍にいてくださるのか?」 「勿論ですよ。。あの世でも、鶴の傍におりまする。絶対に。」 -このまま- …そなたに抱かれたままなら どうなろうとも… …鶴。。そなたを抱きながら一緒に死ねたら… 互いの溢れる熱い思いと、避けられぬ宿命への辛さを押し殺しながら 短くも濃厚に口唇を求め合った。 -突然、城外が騒がしくなった。- 「陣代殿っ‼鶴姫様っ‼おられますかっ?」 「大内が‼大内の大戦艦がっ‼」 「出陣じゃ‼出陣じゃ‼」 大内軍は、大戦艦は、再び三島に向けて動き出したようだ。 「鶴っ‼」 「安成っ‼」 叫びのように呼び合って二人は固く抱き合ったままだった。 …私たちは再び、戦場の海に行かねばならぬ。。… -我らの三島。二人の海を守るためにも-
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