〈第七章愛の初陣〉

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〈第七章愛の初陣〉

勝利した第二次大三島合戦から月日は流れ 鶴姫は、より美しき姫君、女武将に 安成は、見惚れる程の逞しい青年、武将に成長した。 三島城では、再び襲来するであろう大内軍への対策の協議が日々続いていた。 今のところ、敵方の動きはないようだ。 警固台からも忍びからも何も知らせもなく 静かな状態が続いていた。 鶴姫は安成を三島の浜に誘い出した。 -久しぶりの二人だけの時間- 浜辺は、まさに春麗ら 穏やかな碧い海、眩しい太陽 「ん--っ‼いい天気じゃ‼気持ち良い‼」 鶴姫が気持ちよさそうに伸びをした。 「ホンに、いい天気で気持ちよいな!!」 安成も思いきり伸びをした。 「まだ弥生の月なのに、暑くないか?」 鶴姫は、そう言い美しい黒髪を束ね直した。 ふと見た安成の視界に飛び込んできたのは。。 鶴姫の妖艷なうなじ。。鎖骨。。 安成の男の本能が、動かされる。。。 …ならぬ。。昼間から。。… 言い聴かせるも …背後から抱きしめたとして。。 いつものように口づけをして。。 そして私の手は… -ならぬ‼今の私は姫様を押し倒してしまう‼- 「安成?どうされた?」 顔を覗き込んできた鶴姫と目が合った瞬間 「すまぬっ‼祝言も挙げておらぬのにっ」 真っ赤な顔をして、そう叫んで安成は走り去った。 …??安成?。。祝言?。。 一体どうしたというのじゃ?… 訳も分からず立ち去った安成を 鶴姫は探しまわった。 木にもたれ、うなだれている安成を、やっと見つけた。 「安成‼ここにおられたか?」 「姫様‼今は私に近づいてはならぬっ‼」 「一体、どうなされたのじゃ?」 鶴姫は更に安成の傍に近づく。 「うわっ‼ならぬっ‼うわ----っ‼」 叫んだ後、不意に安成は空を見上げた。 「ならぬっ‼じき雨が来る‼」 「。。雨?晴れているが?」 立ち上がった安成は鶴姫の手を引き駆け出した。 「何なのじゃ?一体。。」 手を引かれて駆け込んだのは、三島城の西の櫓の裏にある小屋だった。 本丸までは、まだ距離があった。 安成が、一時避難にと咄嗟に判断したのが、この場所だった。 「もうっ‼たまに安成は、訳分からんっ‼」 鶴姫は繋いでいた手を振りほどいた。 「。。すまなかった。じき雨が降りますから」 「こんなに晴れているのに」 「いえ、間もなく降ります。」 小屋の中に二人きり。。 壁に寄りかかり、少しだけ距離を置いて並んで座っていた。 何やら今までにない空気が漂い始めた。。。 「なぁ?今日の安成は、おかしいぞ?」 「はい、おかしいです。。すまない」 「おかしいと、自分でなぁ。。 ホンに、どうされたのじゃ? 言ってくれぬか?なんでも、いいぞ?」 見つめてくる鶴姫が不思議と女神のように見える。 暫くして安成は正直に語り出した。 「。。恥ずかしいですが、今日、そなたを見ていたら。。男女の営みを想像してしまいました。。祝言も挙げておらぬのに、みっともない男ですね。。」 …安成は。。私を。。… 「男女の営みとは。。いきなりな。。女子は何と言えばいいのじゃ?」 鶴姫は、顔を赤らめた。 「すまない。。私はやはり戦以外の事は全然ダメですね。。ただのスケベェですよね。。恥ずかしくてなりませぬ。」 安成はうつ向いて頭を掻いた。 正直過ぎる安成が、しきりに愛しく思ってしまう。 「男子なんて、皆スケベェなんじゃろ?」 安成は、苦笑いするしかなかった。 「。。私は、祝言を挙げるまで待ってとは思っておらぬ」 鶴姫は大胆な発言をした。 「つ⁉。。。」 「私たちは戦乱の世にいるのじゃ。明日がどうなるかも分からぬ。安成がなさりたいのなら。。何というか。。我慢なさらず。。」 鶴姫の横顔が、いつになく妖艷に見える。 その時、外は激しい雨が叩きつけるように落ちてきた。 「やはり降ってきた。。」 「ホンに。。降ってきた。」 二人は、うつ向いたまま頬の熱を逃がしていた。 暫くして 「では。。初陣じゃ。。」 鶴姫は、はにかみながら呟いた。 「雨音で聴こえぬ、今、何と?」 安成は鶴姫の顔を覗きこんだ。。 「一緒に。。初陣に。。出ぬか?。。」 「初陣。。?」 「もう!これ以上女子に言わせないで。。」 無言でうつ向いたままだった。 叩きつけるような雨が降り続く。。 「。。この雨では城に戻れぬな。本当に降ってくるとは。。」 瀬戸内の気象を熟知している安成を流石と思った。 「。。止むまで、暫くかかりそうです。」 「。。まぁ、一緒にいられて嬉しいじゃろ?」 鶴姫は照れくさそうに呟いた。 「。。嬉しいですが、心臓が破裂しそうです。。」 安成は少し落ち着きがなくなっていた。 安成は、真剣な眼差しで見つめてきた。 「先ほどの初陣とは。。私たちの。。初陣というのですか?」 …もう誘った以上。。後には引けないのだな… 「。。互いに。。初陣じゃろ?」 「。。しかし大祝様に」 「兄上など関係ない。。私たち二人のことなのじゃ。。違うのか?」 こうなれば、さずかの安成も、理性が失われていく。 「ホンに。。よろしいのですか?」 「。。私。。安成なら。。。」 そう呟いて潤んだ瞳で安成を見つめた。 「鶴姫様。。。」 「私。。安成のものに、なりたいのじゃ。。」 「私だって。。。」 「私を。。抱いてく‼」 「鶴姫様!我慢出来ませぬ‼」 ついに安成は鶴姫の身体を強く抱きしめてしまった。 鶴姫は、恐る恐る安成の背中に手をまわした。 -もう、止められぬ- 「私は。。このようなこと。。 軽率な気持ちではありませぬから。。」 耳もとで囁いた。 初めて見る安成の男の表情。。 見つめてくる切れ長の美しい目線は、今までと違う。。 …やはり。。怖い。。… 安成は、鶴姫の束ねた黒髪を、そっとほどき愛しそうに髪を撫でてきた。 そして口唇を重ねてきた。 それは、ぎこちなくも今までにない熱く激しいものになっていった。 息もつけぬほど、止めどなく熱く絡ませてくる。。 やがて口唇は、鶴姫の首筋を熱くつたい始め 着物の上から身体を、まさぐってきた。 初めて身体を求められ鶴姫の身体は硬直している。 「。。。安成」 鶴姫は切なげに呟いた。 泣き出しそうな表情だった。 「もし。。イヤだったら言ってくれて 構いませぬ。 そなたは私の大事な女子です。 無理矢理嫌がることはしたくありませぬ。。」 「イヤではない。。初陣が。。ただ怖いのじゃ。。」 「怖がらないでください。。大丈夫ですから。。」 鶴姫の背中を優しく擦った。 「戦よりも。。怖いのじゃ。。」 「。。。怖くはありませぬ」 囁いた安成は微かに震える鶴姫の身体を、 包むように抱きしめていた。 やがて鶴姫の着物の帯が、ほどかれ 安成の着物がはだけて 二人の身体は、ゆっくりと静かに床に倒れていった。。。 「鶴姫様。。愛してます。。」 そっと頬を撫でながら安成は、囁いた。 覚悟したように、眼を閉じた鶴姫の口唇を 再び安成の口唇が熱く塞いだ。。 襦袢が、はだけてゆき、鶴姫の生まれたままの美しい姿が浮かび上がった。 …綺麗だ。。なんて綺麗なのだろう… 安成は溜め息を飲み込んだ。 口唇が。。指先が。。瑞々しい鶴姫の身体を熱く滑りゆく。。 …男に愛されるというのは。。こういうことなのか。。恥ずかしい。。どうかなりそうじゃ… されるがままに、ただその流れに身を任せていた。 ぐったりしている鶴姫の腰を抱いて覆いかぶさった。 「。。そなたが。。欲しくて。。なりませぬ。。」 「安。。あっ。。イ。。イ、イヤ!」 「つ。。鶴姫。。様。。」 激しい雨音すら二人にはもう聴こえない。。 -愛の初陣- 二人は結ばれた …安成が。。熱い 全身に。。安成を。。感じる。。 痛くて。。苦しい。。 でも何故か逃れたいとは思わなくて それはきっと。。安成だから… 安成は、あらゆる角度で必死に鶴姫の身体を抱きしめていた。 外の激しい雨音が二人の熱い吐息を 掻き消している。。 やがて、あんなに激しかった雨音が 徐々に静かになり。。。 鶴姫の身体を抱きしめていた安成の腕の力が緩んでいった。。 ふたつの身体は、重なったまま暫く放心状態になっていた。 安成は、息を鎮めながら、鶴姫の顔をそっと覗きこんだ。 鶴姫の頬は涙で濡れていた。 「。。泣かせてしまっていたのですね。 気がついてあげられず、すまない。。」 指先で優しく涙を拭ってあげた。 「安成の馬鹿。。」 鶴姫は呟いて安成の胸の中に顔をうずめた。 胸元が、涙で濡れた。。 「こんなことしてしまって。。男を。。 私を。。軽蔑されますか。。」 詫びるように鶴姫の頭を撫でていた。 「。。恥ずかしくて暫くそなたの顔を見れぬ。。」 「姫様、恥ずかしい事ではありませぬ。 私たちは、結ばれたのです。」 「私たち。。結ばれた。。。」 「はい。。ひとつに結ばれたのです。」 安成は鶴姫の身体を、再び愛しそうに抱きしめた。 「。。雨、上がったみたいだな。。」 「。。いつの間に。。」 「城に。。戻るのか?」 「いえ、今宵は。。戻りませぬ。。」 「。。このまま。。傍に。。いいのか?」 「そなたの傍に、このままいたいのです。。」 「。。私もずっと傍におりたい。。」 「ずっと、傍におりまする」 安成は、腕の中の鶴姫を優しく見つめた。 「恥ずかしいから。。見つめないでくれ!」 「ずっと見つめていたいです!」 無理矢理、顔を覗きこむ。 「もぉっ!恥ずかしいのじゃっ。。」 脱がされた襦袢で顔を隠した。 安成は、そんな鶴姫が愛しくて堪らなかった。 …腕の中のそなたの初めて見せる表情は 美くしすぎて。。愛しすぎて。。… …初陣のそなたは黒鷹であった。。女になってしまった私は。。… -永遠にこの時間が続いて欲しい-
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