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信じてよ、泣くよ?
昨日、俺は皆を広場に召集させた。
一面緑で何一つ無い広場には、数え切れないほど(そもそも数える気もないのだが)の人が集まった。
もし数十人しか集まらなかった場合は、ムカついて、ムカつきすぎて、めんどくさくなって寝ていたところだった(召し使いに意味が分からないと言われてしまった)。
人を集めた理由は、言いたいことがあったからだ(めんどくさかったけど)。
ーーーーー
「今日は、皆に伝えたいことがある」
俺は皆を見下げる。
あぁ、いい眺め。
「誰だ?」
「浮いてるぞ!」
おぉ、皆驚いてる。
おもしれーな。
俺はケラケラと笑う。
~一分後~
あー、おもしれー。
ケラケラ。
~五分後~
ぷー、アハハハハッ!
「あの、えっと、その、私達にお話とはなんでしょうか?」
あー、ちょっと笑いすぎたか?
いかにも「皆をまとめる勇者」という感じの男が俺に質問をして来た。
「話?なんだったっけ?」
忘れたな。
そういや、なんでこんなに大勢の人を集めたんだろう、俺。
「えっと、あなたが私達を集めたのでは・・・」
勇者(仮)が困っている。
・・・あれ、この世界に勇者なんていたっけ?
どうでもいいけど。
「あー、えっとなぁ、あれだなぁ、俺って誰だと思う?」
集めた理由、思い出せねー!
とりあえず、時間稼ぎでもしとこ。
「分からないよ」
「誰なんだよ」
「浮いてるよ、神様じゃない?」
「あんな頼りなさそうなのが?違うでしょ」
・・・。
なんか今、俺を侮辱するような言葉が聞こえたんだけど。
気のせいか。
「そうだねー、確かにねー、あんなのが神ならこの世界は終わるね」
ブチッ!
何かが切れる音がしたー。
あー、俺の堪忍袋だ~。
「勝(まさる)様、すぐに怒る癖を直してください」
横で、俺の召し使い一(ワン)が言う。
「あと、私の名前は加恵です」
こいつ、心読めるんだっけな。
主の心読むとか、悪い趣味だなぁ。
「勝様の力ならば、よむなと思えばよめないと思います」
ふぅん。
そんなこと言っていいのかよ、こいつは。
「主様なので。あと、私の名前は加恵です」
・・・。
「わかったわかった、加恵、俺って何のためにこんな大勢を集めたんだっけ」
「・・・はい?」
加恵が、少し、いや大分呆れている気がする。
「呆れました。勝様が神様だと、皆に言うんでしょう?」
呆れすぎて、敬語じゃなくなっちゃった。
「勝様が馬鹿なことを言うからです」
馬鹿・・・。
泣くよ?
おれ、神様だよ?
「知ってます、ですが、神様だとは思いません」
ひどい言い草・・・。
本当に泣くよ?
「ですが、力を使った時、勝様は本当の神様になりますね」
おー!
嬉しいこと言ってくれるじゃない!
いいやつだなぁ!
「はぁ、単純ですね」
おいー!
いい気分になってたのに・・・。
辞めてよ・・・。
グスン、グスン。
「すぐに泣く真似をする、その姿、とても残念ですね」
『俺の召し使いが酷いです』って言う本を書こうかな。
「そんな本、要らないと思います。誰も読みませんよ?」
本にしなくとも、とりあえず愚直ということで、ノートに綴っておこう・・・。
「破っておきますね」
「隠すわ」
「なら無理ですね」
「そうか」
・・・って、どんな会話だよ!
悲しくなってきたわ!
「ところで勝様、早く皆に言えば?」
・・・。
「もう、加恵は敬語じゃなくていいよ・・・」
そっちの方がなんとなく安心する。
「あ、まじ?ありがとうございます。これからは、普通に話すわー」
あー、なんか、落ち着く~。
今思えば、いい声してるなぁ。
・・・ん?
加恵の顔が、なんだか赤い気がする。
まあいっか。
体調不良じゃないといいけど。
「私のことはどうでもいいから、早く皆に言えば?」
「あ、はい」
か、加恵さん!
なんで怒ってるのぉぉ。
「怒ってないから、早く言えば?」
「すみません」
恐ろしいので、早く言うことにしよう。
「皆、答えるのが遅くなってすまないな。俺の正体、わかった人はいるか?」
「正体不明の人」
「誰か」
「神様のフリをしている人」
「悪い人」
・・・。
み、み、んな、協調性がないなぁ。
イライラ。
「怒るな」
あ、はい。
「君たちに、俺の正体を言おうじゃないか」
ビックリして漏らしたりするなよ。
「そんなことするのは勝様ぐらい」
うるさいっ!
「俺の正体はーー」
ごくり(皆の唾を飲み込む音ではなく、自分の、唾を飲み込む音)。
「神様だ~!!」
シーン。
「うっそだあ」
・・・。
え?
な、なんで皆声を揃えるの?
さっきまで、協調性の『き』の字も無かったじゃん!
ねえ、やめてよー、泣くよ?
「ぷっ、あはは、流石勝様だわー」
横で加恵が爆笑中。
酷いです。
ってか、何が流石だよ。
はぁ。
「嘘じゃない、俺は、神様だ!」
しっかりと、ドヤ顔を決めていくぅ!
「神様(笑)さん、嘘は駄目ですよ~」
イラッ。
「嘘じゃないよ?」
ニッコリ。
「嘘でしょ」
「嘘に決まってるでしょ」
「だよねー」
「ねー」
な、なんで・・・。
信じてもらえないんだけど、加恵さん!
「私に言われても知らない。ただし、想定できる理由が数個有ります」
お、マジ?
なになに~?
「一つ、人々の困る様子を見て笑うところ。一つ、この世にある職業を把握してないところ。一つ、言おうとしていたことをすぐに忘れるところ。一つ・・・」
「やめて、もうやめてー!」
うわー、俺が悪かったんですぅ!
すみませんっ!
「フッ」
おい、勝ち誇ったような顔をするな。
ムカつくではないか。
「ここは私が、皆に言ってあげましょう」
え?ん?
なんで君が?
「皆様、私の名前はカエです。横にいるこの方は、間違いなく神様です」
おいおい、俺が言うのと加恵が言うので何がちが・・・。
「あれはカエ様ではないか!」
「本当だ!カエ様が言うなら本当なんだろうね!」
「ごめんなさい、神様。疑ってしまって」
・・・。
え、なんなのこの差は。
泣くよ?
マジで泣くよ?
「フッ、泣いとけ」
おい、加恵さん?
ひどくありませんか?
「でも、カエ様なんかよりずっと弱そうだね」
「そうだね、なんであんな人が神様なんだろう」
よし、一回死んでこよ!
「それは、いいと思う。賛成」
俺って本当に神様?
「はい、力だけは。ただ、中身はクズですね(笑)」
嗤われたわ。
悲しいわ。
こいつ、仕事辞めさせて、監禁したろかな。
「すみません」
ニヤァ~。
ニヤニヤ。
「・・・」
おっと、加恵さ~ん?
何も言えないんだ~?
「ムカつく・・・」
え?え?
なんてぇ?
「コロス」
あー、これはヤバイ~。
凄い殺気を感じるよ・・・。
ヤメトコ。
不本意だが。
「私がいなかったら、皆に神様だとは信じてもらえなかったくせに」
「すいやせんでしたぁぁぁぁぁぁ!」
だから、勝ち誇ったような顔をしないでぇ・・・。
うぅぅ~。
「で、あの、神様。無礼ながらも質問をしてもいいでしょうか・・・」
フッフッフッ!
俺に恐れをなしているようだな!
フハハ、愉快愉快。
「やっぱり最低」
無視無視~。
「質問なら、してもいいぞ!」
俺は優しいからな。
「それぐらい普通だと思うけど」
む、無視無視・・・。
「それで、質問とはなんだ?」
「急かすなよ」
うるさぁい!
「あの、私達にあなた様は神様だと教えて、何をなさるつもりなのでしょうか・・・」
・・・ふぇ?
え、あ、それは、ね?
うん、ね?
「プッ」
笑うなよっ!
「ねえ、どうしよ、加恵様~!」
「ふんっ、知りませんよ」
「なぁんでぇ!」
「その、困っている姿、いいですね」
オレ、カミサマヤメル・・・。
「何故ですか!」
は?
お前にそんなことは言われたくな・・・
「私は、勝様に仕えたいから召し使いなんてやってるんですよ!」
ズキューン!
その、真剣な瞳と少し染まる頬を見て、俺は決める。
「やっぱり辞めないわ。加恵のためにも!」
その言葉を言った瞬間に加恵がニヤリと笑ったのを、俺は気付かなかった。
「あのー、神様?それで、何をなさるつもりで・・・」
あ。
こっちの問題忘れてた。
テヘペロ!
「あ?」
ゾワァ!
ちょ、ちょっと加恵様~!
それぐらいで怒らないでよ。
テヘペロって言っただけじゃん・・・。
「それに怒ってるんじゃないんだけど」
「ですよね、すみませんっ!」
「ハンッ」
はい、鼻で嗤われました!
「私に任せとけば、こんなの余裕」
「え?」
もしや、皆の質問の答え?
まじ、余裕なの?
頼もしい!
それでは是非、お願いしますぅ。
「勝様には、プライドと言うものが無いの?」
飽きてれますねぇ。
フッフッフッ、いいんだよ、加恵くん。
君一人の前よりも、大勢の人の前で見栄を張る方が、偉い人に見えるじゃないか。
「へー、なら、偉い人に見えないようにする」
え、今なんつったー?
「皆様、あなたたちの質問にたいしての答えは私が致します」
「おおー、カエ様が!」
「この神様は、ただ皆様に尊敬してもらいたいだけですので、別に自分が神だと言って、皆様をどうこうするつもりはありません」
え?
ちょっと、加恵さん?
「つまり、ただ、自分が神だと言いたいだけで皆様の時間をとるような、とても神には思えない馬鹿者です」
おいーー!
お前、何言ってくれてんだよ!
「時間をとらせて本当にすみません。どうぞ皆様、各自で帰ってもらってかまいません」
あ、あの、加恵さん・・・。
「何?」
何?じゃなくて、何言っちゃってんの?
「本当のことを皆様に話したまでですが」
な、な、な、な、な・・・。
「私、皆様に伝える前にちゃんと言いましたよね?」
え?何を?
「偉い人に見えないようにする、って」
加恵は、そう言ってニコリと微笑む。
何その笑顔、眩しいよっ。
・・・じゃなくて!
「何をやってくれたんだぁ!」
「クスッ、これで少しは反省してくださいね」
「加恵様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あー、うるさ、うるさ」
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