お題 箪笥

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お題 箪笥

 自分で思い付いたお題で何かかいてみようと、ふと思い立った。その記念すべき一回目は、何故か『箪笥』。思い入れは特にない。  どちらかと言えば押し入れの方が魅力的である。中に入ったときの安心感がなんとも言えない。襖を閉じて真っ暗闇の中、何かが起こりそうな胸の高揚。中にお布団が仕舞ってあると尚良い。  が、今回のお題は箪笥である。木の臭いが鼻をくすぐる。目を瞑れば森の中にいるようで。でもその中に、我が家の服の匂いもある。少し手を伸ばせば洗濯された服のふんわりとした布の手触り。  箪笥の奥の方、いつも見えない奥の方。全部引き出すことなんてないから見えないけど、どんな風なんだろう。気になる。  境界がある。引き出す段によって世界が違う。天井を越えれば別の世界。そこは太陽がジリジリと暑くて。あるいは北風が吹きすさぶ寒さで。春のような優しさにくるまれた温もり、秋のように少しクールで、でも実は優しくて活動的な澄んだ涼しさ。様々な世界があるに違いない。  あゝ、そこにはどんな生物が住んでいるのだろうか。  行ってみたい、行ってみたい。  全部引き出して、残った空の箱のなかに入ったら。きっと暖かい。ヤマネのようにくるまりたい。そのまま眠つて……。  気付いたら、世界からいなくなっている。  人々の記憶にもなく。痕跡も跡形もなく残らず。そもそも生まれていなかったに違いない。そんな風に消えてなくなる。  いいなぁ、と思う自分と、やっぱり痕跡が欲しいと思う自分がいる。生きたという痕跡。  どちらの方が、良いのだろうか。等ととりとめのないことを、今日も考えた。受験生の癖に。
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