死を見ゆる神

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「竜胆。元気かい」  川向こうの魚釣りのおやじだ。着物の足元をたくし上げて、日焼けした足を見せている。つやつやと光る川魚を三尾、紐に通して持ち上げていた。 「元気だよ」  竜胆がふっと笑うと、桜の香りがする。 「魚、持ってきたからよ。(あざみ)と食いな」 「ありがとう」 「薊も、気張れよ。【角見(つのみ)】としてのお役目、しっかりな」  声をかけられるとは思っていなかったので、わたしは少し間をあけてから頭を下げた。  おやじは神妙な面持ちで家の中に入ってくると、座っている竜胆と向かい合った。 「竜胆。お前には、おっかあも、俺も、本当に助けられた。向こうで幸せにやってくれ」 「ああ。ありがとう」 「礼を言うのはこっちだ。竜胆、ありがとう。ありがとうな」  おやじは竜胆に魚を渡すと、手を合わせて拝むようにしてから、出て行った。  竜胆がつぶやいた。 「食う前に腐っちまうな。お前だけじゃこんなに食えねえだろう」  わたしは、かまどの横に積み上がった野菜に目を向ける。 「埋めるから、いい」 「そうさな」  竜胆はまた笑みを見せる。 「生き物は土に還るもんだ」
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