死を見ゆる神

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 歩けば歩くほど、竜胆の肌は風邪のときのように熱を持ち、額から絶えず汗が流れ落ちる。痛みに歯を食いしばり、よろよろと歩いている。  この生き物が本当に、これから死ぬのだろうか。こんなにも熱く、汗をかき、息をしている生き物が。  角がとれて、ひとに戻ることはないのだろうか。本当は、死ななかったりするのではなかろうか。  そんなことを思いながら、地面だけ見つめて歩いていたとき。 「着いた」  竜胆がほととつぶやいた。  喜びも、悲しみもない、ただそこに浮かべるだけのうつろなつぶやきだった。  竜胆がわたしの肩から手を放し、走っていく。草履が脱げて、土まみれの足の裏が見えた。それでも前だけを向いている。  わたしも竜胆を追った。  竜胆が立ち止まったのは、淡く光を放つ巨木の前だった。天を支えるように、枝葉を一面に掲げている。空気はあまりにも清く、息をすることを拒むようだ。巨木にひれ伏すように、根元で角の折れた獣たちが息絶えていた。  わたしが近づいてみると、練色の樹皮はごわごわとした太い帯が年月を経て巻き付いたようで、年かさの老人を思わせた。  白緑の小さな光の粒が、蛍のように舞って、生きていた物たちに降り積もっていく。  これが、山神だ。自然と、思った。
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