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竜胆が膝をついて俯せに倒れこむ。わたしが駆け寄ると、まだ息をしていた。
「顔を、洗いたい」
竜胆に言われて、わたしは水辺を探した。
巨木のすぐそばに浅い池があった。池の水は夕陽を吸い込んで、茜と群青を混ぜたような色をしていた。
わたしが竜胆を池まで引きずるようにして連れていくと、彼は泥のついた顔と手を洗った。そして、水面に映る自分の角を見た。
藍の瞳でじいと見つめた。
今にも闇に溶けそうな己の姿。神から授かった角だけが輝いている。
神が死を、見つめていた。
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