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「怖くないの」
「いいよ、おれは。死ぬときがわかっているだけましだ」
わたしが問うと、竜胆はそう言いながら、木の根元の死骸を踏まぬよう気をつけて、仰向けに寝転んだ。
「おれのおっとうも、おっかあも、お前のおっかあも、自分がいつ死ぬのかなんて知らなかったろう」
わたしは、少し考えてからうなずいた。
「それに、おれはこの角のおかげで、いろんな人に愛された。おれは幸せだったよ」
雫が竜胆のほほを滑っていく。わたしが袖でそれを拭うと、竜胆は目を細めた。
もう痛みも感じていないのか、穏やかな顔つきだった。
「まあ、そうさな――お前がおとなになった姿を見られないのは、少しばかり残念だが」
骨ばった指でわたしの前髪をすく。
「ここまで送ってくれて、ありがとう。帰り道、気ぃつけな」
手をおろし、竜胆は自分の腹のあたりで軽く両手を重ねる。穏やかに呼吸を繰り返したのち、ふう――と永く、息を吐いた。
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