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わたしはしばらく竜胆のそばに座っていた。竜胆の胸が動かないのを、不思議な気持ちで見ていた。
色々な獣が訪れては、竜胆のように木の根元に体を横たえて冷たくなっていく。
わたしは、竹筒と木の皮の包みを取り出した。包みを解くとツノガミの薬が出てきた。水の中にそれを振り入れる。
村の者には万病の薬。
外の者には致死の毒。
おっかあの硬い掌を思い出しながら、わたしは水を口に含んだ。いつの間にか乾ききっていたひりつく喉に、冷たい水は甘露だった。
わたしは両の手で筒を持ち、最後の一滴まで飲み干した。筒を放り捨てると、遠くでかこんと音がした。
ただただ眠かった。
見下ろすと、竜胆が気持ちよさそうに寝ていた。
わたしは竜胆の胸に、頭を横向きに置く。
静かだった。
とても、静かだった。
竜胆の顔をもう一度見る。竜胆は笑っているのに、もう桜の香りはしない。月明かりが竜胆の顔を白く染めている。
もう夜だ。童っ子が、こんな夜まで起きてちゃあいけない。
目をつむった。
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