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序章 旅立ち
私の名はパック。31歳独身。職業は勇者。
早速だがこの仕事、私はやりたくてやっている訳ではないということを明記しておきたい。
元々、私はロゼッタロマリエ王立小学校の教師だったのだ。
とにかく私が勇者にさせられた経緯を聞いてほしい。いや、誰かに聞いてもらわないと、とてもではないが正気を保っていられないのだ。
ちょうど1週間前、私はいつものように朝自宅のアパートを出た。そして愛しのセアラさんのいるポムポムベーカリーで、カレーパン2つとソーセージツイストとプリンを買ったのだ。レジでわざとお釣りの出る金額を渡して、セアラさんの手に触れる。これもいつもどおりだ。
店を出て少し歩いたところで、気味の悪い喋るインコに付きまとわれたのが不幸の始まりだった。
「オー、ツイニハッケンシタ。シンノユウシャダ。シンノユウシャダ。」
その忌々しいインコは私に執拗に付きまとい、呪文のようにシンノユウシャダをくり返した。私は手を振り回して必死に追い払おうとしたが、インコはそれを巧みにかわして一向に離れてくれない。
そうやって悪戦苦闘しているうちに、どこからか王宮の兵隊が3、4人やってきて私の前にかしこまって整列した。
「賢者のインコがあなた様を勇者と認めました。つきましてはすぐに王宮までお出でください。」
「え、いや、私通勤中なんですけど。」
「ご勤務先には話をつけておきます。早急に王宮へお出でられませい。」
……断れるはずもなかった。兵隊たちは言葉づかいこそ慇懃だが、その眼光たるや、私が彼らの勧告を拒否しようものなら、その場で斬りかかってきそうな雰囲気だったのだ。
それに私の暮らす、このやけに長ったらしい名前の国、ロゼッタロマリエは王国だ。王宮の命令には逆らえない。
ちくしょう、一体なんなんだ。仕事、行かなくてホントにいいのかよ。
私は深くため息をついた。
しかも最悪だ。あのクソインコ、いつの間にか私のソーセージツイストをくわえて肉屋の看板の上ですましていやがる。おのれ、いつか取っ捕まえて羽をむしりとって焼き鳥にしてやる。
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