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偏屈者同盟
「おめでとう!」
寂れた八畳のワンルーム、ミヒロはクラッカーを鳴らした。甘い火薬のにおいが鼻腔をくすぐる。場面は誕生日である。だがケーキなどゴチソウはない。クラッカー一発が、料理のかわりだった。
「ありがとう!」
祝われた男は手を胸の前で合わせて、大げさに喜んだ。二人はそのまま静止する。一時停止したような静寂が、においとともに広がっていく。
ミヒロが一つ手を打ち合わせ、空気を変えた。
「はい、じゃあ『コミュ障の会』第十二回雑談会をはじめます」
「よろしくお願い致します」
二人のそれは、あまりにも落ち着いた言葉だった。先程のやり取りは、火薬臭が空気に紛れて、跡形もなくなってしまう。
「合言葉は――」
「共感なんてクソくらえ」「共感なんてクソくらえ」
「ありがとう、同志ユウスケ」
「こちらこそ、誕生日を祝ってくれて感謝してる」
コミュ障の会とは、同じ大学に通うミヒロとユウスケによる、思想的な集まりである。伝えるための行動として共感も必要なコミュニケーション。他人の内面を意識し、感じて探ってチューニングすれば円滑に伝えられる。だが合わせるばかりでは疲れてしまう。しかも二人は不器用で、チューニングも行きすぎ戻りすぎ、ちょうどいいところで止まれない。
だから二人はこの会を結成した。月一回、雑談会を開いて、相手が理解できずとも好き勝手言葉を紡ぐのである。それは日常からの解放の時だ。ある時はサラダから、一言で詩の話に変わった。またある時、ミヒロは猫のことについて、ユウスケは便器について話した。ミヒロが「猫はやっぱり白がいい」と言えば、ユウスケは「城には便器があるのかな?」と疑問を抱くのである。はたから見れば意味不明だ。
「活動の一環である」
「君のも活動として祝ったしね」
「ユウくんはご丁寧にプレゼントをくれたからな、面倒だがお返しだ」
横に置いてあった紙袋を差し出す。ユウスケは軽く頭を下げて受け取ると、すぐに中身を取り出し、海外のように包装紙を豪快に破く。一枚、二枚、箱に入っていて、その次はプラスチックの袋、そして中身に至る。
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