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車に乗ってから三十分ほど。
ビルの駐車場に入って行く。
「ここで働いているのですか?」
「昨日までは」
「どういう…?」
「ただの引っ越し」
焦る…
いくら松羅さんと言っても、ウチの親なら平気で潰し兼ねない。
あたしが帰らない間は、常にこの恐怖がつきまとうんだ…
「…それならよかったです…」
小声で言ったのに聞こえたのか、わざわざ帽子を取ってまでして頭を撫でてきた。
「大丈夫」
あたしの心配に気づいたんだろう、優しく笑ってそう言ってくれる。
なんだか、安心させてくれるような、そんな笑顔。
恥ずかしくなって、帽子を取り返し深く被り直す。
「こっち」
手を引かれることはないものの、歩調を合わせてくれているようで心境がバレている感じ。
ソレもソレで恥ずかしい。
「麗衣にしてもらうのは、俺と俺の部屋の整理な」
「ハイ」
エレベーターに乗り込んだけれど、あっという間につくし下を向いていたから、ここが何階かわからないまま。
歩き出す松羅さんについて行くしかない。
会社ごとの引っ越しではないのだろうか?
すごく静かで、そんなことしてないように思える。
松羅さんの言う部屋に到着するまで誰にも会わなかったし。
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