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気弱になったアタシは、コートを合わせて、深く息を吸い込み、自分を確かめる。
シャネルのアリュール。
これだけがアタシをアタシだと確かめさせてくれる。
キョウスケもカナエも、柔軟剤だと勘違いするぐらいの薄い香りは、もう三年ぐらいアタシの匂い。
華やかなのに自然体、一回嗅いだ時から忘れられない。
それは言葉に出来ない。
背伸びして入ったお店の店員が、勧めてくれた。
これは一人ひとり、すべての女性にその人だけの魅力、アリュールがあるように、まとう女性によって香りが変わるのよ。と。
フレッシュ、 フルーティ、フローラル、フェミニンフローラル、 ウッディ、オリエンタルの六つの香りの中で、何が出てくるかによって印象が変わるの。
あなたは、フレッシュとフローラルが強めに出ているみたい。
これがアタシだけの香りかと思うと、自分が肯定されたようで、元気がでてきた。
その頃のアタシは、初めての彼氏にフラれたばかりで、何が悪かったのかも分からず、自信も何かもを失っていた。
アタシの事を愛してくれる人なんて、誰も居ないんだ。世界はアタシの事なんて必要としていない。とか言って拗ねていた。
ホント、今思うと子供っぽくて呆れちゃう。
だから、そのままでいいと言ってくれるアリュールは、とても優しくて。ふわりとアタシの心に入ってきて、刺だらけだった心を抱きしめてくれた。
あの頃よりちょっと大人になったアタシは、それが全て幻想だったと知っている。
それでもアリュールは、アタシはアタシのままでいいんだよ。って自信をくれていたのは事実。
それは今でもそうで。
不安になった時、いつもそのままでいいんだよ。と後押ししてくれる。
この香りを使いこなせるようになったら、アナタは一人前のレディになれるわ。そうしたら、アナタを振った男以上の男と、きっと幸せになれるわ。
おどけたように言う店員の言葉を思い出し笑ってしまう。
やっと、アタシに馴染んできたような気もするけど、まだ充分に魅力を引き出せていないような気もする。
こんな事で迷っているようでは、幸せにはまだ、ほど遠いのかもしれない。
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