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キョロキョロと、落ちたと思った場所を探したけど、カギは中々見つからない。
「これ、探してるの?」
声をかけられ男の方を見ると、アタシのカギを持っていた。
「それ、探してたんです。ありがとうございます」
丁寧にお礼を言って、受け取ろうとしたのに何故か男は返してくれない。
うわ、面倒くさい男だ。
「さっきの見た?」
「見たくなかったけど、見せつけられて不快でした」
「それは、ごめん」
「どうでもいいんで、早く返してもらえます? 帰りたいんで」
男は吸っていた煙草を踏み潰し、アタシの顔をみる。
近くで見ると、思ったより幼くみえる顔立ちだな。とかアタシはバカみたいに男の事を観察していた。
アタシと同じくらいか、一つ上ぐらいかな。
前髪はちょっと長いけど、ミステリアスって感じで好きな人は好きかもね。
そんな男が、いつまでも無言で見てくるから圧迫感を感じる。
「な、なんですか?」
声が少しうわずってしまう。
差し出してる手に鍵はまだ落ちてこない。
そして、いきなりその手を捕まれ、引っ張られ、唇が重なる。
反動で持っていた缶コーヒーが、床に落ちる。
まだ四分の一残っていたのに。
触れた唇から香る苦い煙草の味、それとオリエンタルノート。
あれ、この匂いどこかで。
思考が引っ張られそうになるのを無理やりふりほどき、アタシは思いっきり、捕まれていない手で男の頬を叩いた。
「痛ってぇな、拾い主には一割だろ」
「コーヒーかけられなかっただけ有り難く思え、痴漢野郎」
全然悪びれる様子のない男に、アタシは腹が立つ。
「これ、返さなくていいの?」
男の手の中にはまだカギが残っているけど、もういらない。
それよりも、この場から早く離れる方が先だ。
「結構です」
そう言ってアタシはわざと大きな足音を立てて、路地からでる。
「オレ、そこで働いてるから返してもらいたかったら、いつでも来な」
奥から軽い声が聞こえるけど完全に無視をする。
ちきしょう。
なんていう、軽い男。
最低だ。
顔がいいからって許されると思うな、くそ。
路地を出てからふと思う。
っていうか、今日家に入れないけど、どうしよう。
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