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「お疲れ」  茶髪にボーダーの、明るそうな一人が先に入ってくる。  その後ろから、モサッとメガネをかけたミナト君とやらが、顔を出す。 「遅くなってごめんね。こいつが教授に捕まっちゃってさ。ほら、ミナトも早く謝れよ」  友達に促されて、仕方なくというようにミナト君が頭をさげる。 「すいません」  減点百。  暗い、暗すぎる。 「全然いいよ。私達が早く来すぎちゃっただけなの。あ、コートかける所あるよ」  そんなテンションの低さも気にせず、カナエは意気揚々と、ミナト君のジャケットを脱がせ、ハンガーにかけている。  恋ってやつは盲目なんだな。とアタシは改めて思った。  ミナト君が着ている黒のタートルネックにジーパンは、よくある大衆店で買ったもので、ただ清潔というだけで普通のものだった。  アタシは必然的に、もう一人のトレンチコートをかける事になる。  茶髪にボーダーの彼は「ありがとう」って添え物のアタシに優しくしてくれるから、ちょっとキュンとなる。  席に座ると、早速向かいに座ったミナト君に対しカナエはマシンガンのように話し出す。 「なんか呑む? メニューあるよ。ここ焼き鳥が美味しいんだって、ミナト君は何が好き?」  飛ばしすぎだって。  息継ぎもほとんどしないまま喋り出すカナエに、アタシと茶髪の彼は思わず顔を見合わせて笑ってしまう。  その笑みに、面倒くさいと思ってたけど、この人はちょっとイイ人みたい。と安心した。  逆にミナト君は相槌も打たず、ただメニューに目を落としている。 「カナエ、ちょっと落ち着いたら。アタシなんて、まだ自己紹介もしてないよ」 「あ、ごめん」  はっと気づいたかのように、お喋りが止まる。 「とりあえず、みんなビールでいい? アタシ頼むから。他に居るものあったらどんどん言って、全部カナエの奢りだから」 「もうエマったらひどい」  そう言ってアタシの肩を軽く叩くカナエ。  少しは緊張もとけたみたいだ。  そう、それぐらいでいこうよ。
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