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とりあえずビールが来たので「お疲れ様」と乾杯する。
入り口側にナオキ君とアタシが座り、向かいにカナエ、その隣がミナト君という席だ。
多分、ナオキ君が気を使ったんだろう。
テーブルには唐揚げやら枝豆やら、定番のつまみがのっている。
アタシはプチプチと枝豆をつまむ。
カナエはさっきとは変わって、モジモジしていて、ミナト君はあまり喋らずビールを飲んでいる。
さっきの勢いはどうしたんだよ。
と思いつつ助け船を出す。
「ミナト君、頭イイらしいけどどれくらいいいの?」
ミナト君はビールを飲む手を止め、ジロリとアタシを見て素っ気なく「普通」と言う。
何こいつ、ケンカでも売ってるのか?
「普通ってなんだよミナト、話広がらないな」
焼き鳥を美味しそうに食べながら、ナオキ君がアタシの代わりに突っ込む。
「こいつ、一応特待生で大学入ってるんだぜ、凄いよな。」
特待生って確かあんまり居ないはず。
確か、学費免除とか特典がモリモリついてるというウワサの。実物は初めて見たわ。
ミナト君はため息をつく。
「教授の仕事ばかりでイイ事なんてないよ。まあ、しょうがないんだけど」
そう言って、またビールを飲む作業に戻る。
ヤバイ、アイツが喋ると空気が凍る。
「こら、オレが無理やり連れてきたからって、そんな露骨にイヤそうな顔するなよ。二人とも困ってるだろ」
いや、困ってるのはアタシだけで、カナエはただ緊張してるだけだと思う。
「ごめん。また今日面倒な仕事頼まれて、頭がいっぱいだった。せっかく誘ってくれたのに悪かった」
と申し訳なさそうにミナト君が言う。
目がばっちりあったカナエは赤くなったあと、早口で喋り始める。
「そ、そんな事ないよ。アタシが無理矢理誘っちゃったから。ミナト君忙しいのにごめんね。あ、もうグラス空じゃん、何か飲む?」
ようやくスイッチ入ったみたい。
「エマちゃんはミナトの事興味ないの?」
あー、カナエがべったりだから。
確かにいわゆるイケメン顔だけど、さっきから相づちしか打たないし、前髪のばしすぎ。喋りもボソボソしてるし合わなそう。
「アタシ、頭悪いから頭イイ人苦手なんだよね。ナオキ君の方が喋るの上手いし、モテるんじゃない?」
「じゃ、付き合う?」
「残念、彼氏居るんだよね」
「マジか」
「ごめんね」
ま、別れるかもしれないけど。
こんな時は便利だよね、彼氏居るって。
落ち込むナオキ君にドンマイとビールを追加してあげる。
でも、ホントめっちゃイイ人だな。喋りやすいし。イヤイヤ来たけど結構楽しい。
アタシはビールをやめて、カシスオレンジを代わりに頼む。今日は酔う必要がないからね。
これでカナエが、ミナト君とくっついてくれれば万歳。
なんかミナト君は嫌がってるっぽいけど。
っていうか、たまに睨んでくるんだよな、気のせいかもしれないけど。
「お、気になってる?」
「そういう訳じゃないよ。気になるのはカナエの方」
「友達の心配? 仲良いね、二人」
「そうかな? 二人と同じくらいだよ」
ようやく打ち解けたらしいカナエとミナト君は、仲良さそうとまでは行かないけど、一応カナエの話す事にミナト君が、うんうんと相槌を打っている。
「アイツ気難しくて、すぐ人に誤解されるから心配なんだ」
そうでしょうね。
あんなに興味なさそうな態度とられてたら、逆に敵ばかり作りそう。
あんなにカナエにアプローチされてるのに、全く興味なさそうだもん。ベタベタにひっつかれてるのに顔色変えないなんて、逆に凄いな。
「ナオキ君は優しいね」
「惚れそう?」
「それはない」
漫才みたいなやりとりに、アタシとナオキ君は二人で笑った。
これぐらい社交性がないと、あの偏屈っぽいやつの友達は出来ないか。
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