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「良かったよ」
「アタシも」
そのままキスをしようとするから、気付かないフリをしてすり抜け、冷蔵庫から水をとり、グラス二杯分入れ渡す。
「はい」
「サンキュ」
上手く騙されてくれて、上機嫌に片方のグラスを受け取ってくれる。
気の効く彼女のフリは、出来てるかしら。
何か、煙草吸いたい。
アタシは水を一口飲んで、ベッドボードの上に置く。
そして、床に落とした下着などを、さっさと身につける。
「なあ、今日泊まって行かないの?」
キョウスケは寝そべったまま、そんなアタシを見ている。
服を脱ぐのを見られるより、着てる所を見られる方が恥ずかしい。
そんな事も分からないなんて、やっぱり無理かも。
無視してニットとジーパンを履き、髪の毛を軽く整える。
「俺の事イヤになった?」
しゅんとなってる様子は、耳が垂れてるようにも見える。
ヤバイ。
セックスすると母性本能? そんなのものが刺激されて、絆されてしまいそうになる。
ホント、悪いヤツではない。
なのに、なんでアタシはこんなに冷めきっているのだろう。
アタシはベッドに腰かけ、不貞腐れているキョウスケの額に、チュと軽く口付ける。
「今日は着替え持ってきてないから、また今度ね」
とびきりの甘い笑顔を作ってやる。
二日も同じ服を着て、大学に行くだなんて。冗談じゃない。
その言葉に、まだ裸のままのキョウスケが抱きついてくる。
「エマぁ、好き」
って甘えるように、アタシのセーターに頭をグリグリと押し付ける。
「これ、イイ匂い。エマと同じ匂い。なんの柔軟剤使ってるの?」
「うーん、教えない。秘密」
アタシはお返しっていうかのように、キョウスケの頭を撫でまわす。
色素が薄く、サラサラした髪の毛を触るのは楽しい。
そんなアタシの手から逃げるように、キョウスケが言う。
「ねえ、一緒に住もうよ」
ドキリとする。
どこまで本気で言っているか分からず、アタシはつい困ったような顔をしてしまう。
それを見たキョウスケの眉が、下がるのがわかる。
「そうだよね、まだ早いよね」
「ごめんね」
その場に居づらくなったアタシは、コートを掴み、ブルガリブラックの充満した部屋から抜け出した。
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