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第1章
アラームが鳴っている。
スマホのアラームだが自分のアラーム音とは違う。
寝ぼけ眼をこすりながら枕元にあるスマホを掴む。
瞼を開けてスマホを見ると午前6時00分と表示されている。
やはり自分のスマホとは機種が違う。
「あれ、機種変更した覚えはないけどな」
ぼんやりしながらアラームを止めると、知らない部屋だ。
とりあえず薄暗い中、窓辺まで歩きカーテンを開ける。
朝陽が眩しい。右手で朝陽を遮ると、目前には白い手。
「え?白い。白人の手?」
慌てて両の掌をまじまじと見つめると確かに白い。白人の手だ。
それにさっきから気にはなっていたが自分の部屋では無い、見知らぬ部屋。
「ここはどこだ?」
冷たい汗が一筋こめかみを流れる。
ふと、机の上に小さな鏡が置いてあるのに気が付き手に取る。
鏡を覗き込むとそこには端正な顔立ちの金髪碧眼の白人の少年が映っている。
知っている顔だ。忘れるはずもない。
高校の同じクラスの白人ハーフ 吉田健一の顔だ。
呪いか?天罰の類か?いつも俺がイジメている白人ハーフの吉田健一の身体になってしまっている。
すると……ここは吉田健一の家。
「夢なら早く覚めてくれ!頼む!」
瞼を閉じて強く祈ってみたが再び瞼を開けてみても、鏡に映っているのは不安な顔をした白人の少年だった。
こうなれば夢から覚めるまで吉田健一として過ごすしかないか。
吉田の母親との朝食は気まずいものだった。
「健一、今日はなんだか変ね。」
「え、変って?」
「いつも朝は必ず納豆をよーくかき混ぜるじゃないの。それが僕のルーティーンだって。それなのに今日は納豆のパックにすら手をつけていないわ」
吉田の奴、外人なのに毎朝納豆食ってやがるのか……
そんなことを考えながら返事をする。
「き、今日はさ、いつもと違う気分でさ。いろいろと難しい年頃なんだよ」
「そう……学校に遅れないようにね」
吉田の母親との気まずい朝食を終え、身支度をととのえてから自転車に乗って学校に向かう。
吉田の住んでいるアパートがある福田町から、通っている県立七北田高等学校までは七北田川を渡って自転車で十五分ほど、仙台港インターチェンジの近くだ。
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