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第2章
学校に着くと信じられない光景を目にした。
自分とばったり廊下で出会ってしまったのだ。
いやこの場合、白人ハーフの吉田健一が純日本人の黒田みのると出会ったと言った方が正しいのか。
何が正しいのか、何が間違っているのか自分でも頭の中が混乱していてよくわからないが、とにかく目の前には昨日までの自分、黒田みのるがニヤニヤしながら立っていた。
両脇には黒田の友人の高橋一也と内田隆彦が立っていて同じくニヤニヤしながらこちらを見つめている。
やおら高橋が口を開く。
「おーっ!こんな所にYouが居ますよ」
続けて内田が口を開く。
「早速インタビューしてみましょう!Youは何しに日本へ?」
黒田……いや昨日までの自分も続けて口を開いた。
「Youは何しに日本へ?」
ハーフである吉田に対して、毎日自分がやっていた事とは言え、やられる立場になるとこんなにも腹が立つものなのか。
俺はこんな理不尽なイジメを吉田にしていたのか。自分自身に対し、こみ上げる怒りを抑えながらハッキリとした口調で三人に向かって言い放った。
「俺は白人ハーフだけど、日本生まれの日本育ち。正真正銘の日本人だ!」
三人は予想外の吉田(の皮を被った俺)の反応に一瞬ポカンしていたが、直ぐに黒田が口を開いた。
「いつもはボソボソと聞き取りづらい話し方なのに、今日は随分と威勢がいいじゃねぇか。やるのかテメェ」
そう言って黒田は右手を伸ばしシャツの襟を掴んだ。
俺は左手で黒田の右腕を掴むと素早く体を回転させ、同時に右腕を黒田の脇に差し入れた。
「フンッ」
前方に軽く力を入れると、黒田の身体は宙を舞い、次の瞬間には仰向けに床に倒れていた。一本背負い投げが決まった。
唖然とした表情の黒田に告げる。
「十年早いんだよ!」
いつも家で遊んでいるレトロ格闘ゲーム『バーチャファイター』のキャラクターの一人の決め台詞だ。
「て、てめぇー!」
裏返った声で内田が叫ぶと、こちらに突進してきた。
俺は内田の懐に素早く入り込み、内側から彼の右足を払った。
内田は「あっ」と声を発しながら仰向けに倒れこんだ。大内刈りが決まった。
「国へ帰るんだな。お前にも家族が居るだろう」
これまた家で遊んでいるレトロ格闘ゲーム『ストリートファイターⅣ』のキャラクターの一人の決め台詞だ。
酸欠の金魚みたいに口を開けたまま仰向けに倒れている内田に決め台詞を告げると、俺は櫛で前髪をとかすしぐさをした。
「国へ帰れとか、家族とか…何言ってんだお前」
そう言った高橋に向けてファイティングポーズを取ると、彼は「なんだコイツ」と言いながら足早に逃げて行った。
「いつもやられてばっかりなのに、今日はどうしちゃったの?」
そう言われて振り返ると、同じクラスの女子 山内真理子が立っていた。
「ようやく刃向かう気になった?」
そういうと小柄な山内はニコッとほほ笑んで見せた。
「俺はスロースターターなの」
「スローすぎるでしょ。またいつもみたいに助け舟出さなきゃって心配したんだから。さ、ホームルームが始まるよ」
山内に言われて教室に入る。
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