憧れに手を伸ばす

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「その顔、懐かしいな」 「え?」 「さっきもそう思った」  さっきとは、いつのことだろう?  困惑顔で首を傾げる琴音に、彼は続けて言った。 「琴音は昔っから、母親の前だとわざと行儀の悪いことをして怒られてた。注意を引こうと一生懸命だったの覚えてるよ」  言いながら頬杖を突き、閑はまっすぐ見つめてくる。何か温かい、本当に何かを懐かしむ目だった。  琴音は、子供の頃から未だ抜けない癖とコンプレックスをずばりと指摘され、一瞬言葉が出なかった。それから、あまりの恥ずかしさにかあっと耳まで熱くなる。 「べ、別に、そんなこと、大人になってまでしてないよ!」  確かに子供の頃はそんなところがあったのは認める。姉ばかりに関心がいって、両親に見て欲しかった。姉のことも大好きだったから、姉にも甘えた。そうすることで、子供なりに必死で自己主張をしていたのだ。 「そうか? さっきの様子を見てる限り、そう変わらなかったけどな?」 「子供の時はそうだったけど! もう今は癖みたいなものなの!」 「そんなに恥ずかしがることか?」  くすくすと閑は笑うが、恥ずかしいに決まっている。今更もう、親の愛情を欲しがる年齢でもない。
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