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姉の可乃子は、両親自慢の才女だ。子供の頃から勉強も良く出来て、明るい性格で友達も多く、大人受けも良かった。
対して琴音は、おっとりとして勉強もイマイチ。落ち着きもなくて、両親には怒られてばかり。その上、背丈ばかりがすくすく伸びて、可愛げのない身長になった。どうにか百七十になる前に止まってくれたが、コンプレックスになるには十分だ。
見た目は小柄で女らしく、中身はしっかり者で姉御肌。頭もいい。琴音と正反対。そんな可乃子と付き合っていたということは、閑の好みのタイプがそういう女性だということだ。つまり、琴音には程遠い。それに、だ。
――別れたとはいえ、姉と付き合ったあとに妹と付き合えるもの? 私だって、さすがに躊躇うんだけど。確かに、子供の時は大好きだった相手だけどさ……。
「母は少し遅れるそうで。すみません、お待たせして」
「そうなの? 彼女とも会うのは久しぶりなのよ、楽しみだわ」
にこやかに母親と話す閑を、つい探るような目で見てしまう。そんな琴音に構うことなく、彼は向かいの席に着いた。その後も母親が話し続けたので、最初に間抜けな顔で名前を呼んだきり、挨拶するタイミングを逃してしまった。
何より、彼もそれきり、ちらりともこちらを見ない。その様子を見ていて、はたと合点がいった。
いくら祖父同士が交わした遠い昔の口約束とはいえ、ドタキャンで済ませるわけにはいかなかったんだろう。少なくとも、子供の頃に王子様と慕った兄のような人が、そんな無責任な大人になっているはずがない。
――ちゃんと顔見て断ろうってことよね。いや、それはそれでちょっとショックだけど。まあ、私もそのつもりでここに来ているわけだし、お互い様だよ。うん。
だから平気だもんね、と誰に対してかわからない言い訳をしていると、隣の母親がつんと肘で腕を小突いてくる。ちらりと視線を向ければ、呆れたような目で見られていた。
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