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あんたもちょっとは喋りなさい、と目が訴えている。しかし、あなたがさっきから喋っているから、口を挟む余地がないんじゃないかと琴音は言いたい。
素知らぬ顔で紅茶のカップを手に取り口元に運ぶと、母親は諦めたように再び話し始めた。
「それにしても、格好よくなったわねえ。子供の頃から綺麗な子だとは思ってたけど。モデルさんみたい」
――そういう、見た目のことばっかり褒めるのは失礼じゃないのかなあ。
しみじみと感心したような目で閑を見る母が、恥ずかしい。
「モテるでしょう? 本当にこの子でいいのかしら、心配になってきちゃったわ。この子ったら相変わらず洒落っ気もないし」
いきなり核心をついてくるセリフに、思わず紅茶を噴きそうになり、どうにか飲み込む。母親が自分を貶すのはいつものことだし、琴音は慣れっこだ。
だから今日も必要以上に着飾ることはせず、仕事で使うパンツスーツで来た。さすがにリクルート仕様の黒や紺はやめてベージュにしておいたけれど。ヘアスタイルも、緩くウェーブのかかったミディアムロングを後頭部でひとつにまとめているだけ。出勤時とさほど変わらない。
それを母親は苦虫を噛み潰したように見ていたが。
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