憧れに手を伸ばす

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憧れに手を伸ばす

 染谷琴音(そめやことね)、二十八歳。  大学を出て入ったIT企業で忙殺されながら、気が付けば六年が経過していた。最後にまともな休日を取ったのはいつだったか。気づいてしまえば間違いなく今以上に病んでいくので、余計なことは考えないことにしている。 「死ぬ……このままじゃ、まじで死ぬ……」  納品直前で仕様変更を上司から言われ、『無茶苦茶です!』と抗議もむなしくグループ全員で会社に泊まり込むこと一週間、どうにか納めて年末年始の休みだけはもぎ取った。  十二月二十九日、夜十一時。重い身体を引きずって一人暮らしをしているマンションの部屋に辿り着く。しばらくパソコン画面は見たくない。というかスマートフォンの画面も見たくない。眼精疲労なのか肩こりなのか、頭痛が酷い。  ラグの上でぐったり寝そべり、そういやこのところ携帯をチェックしていなかったと思い出した。  頭痛が悪化しそうだと思いつつ、バッグの中から手探りでスマートフォンを探し出す。眉間に皺を寄せながら、来ていたメッセージに目を通した。  ――見るんじゃなかった。 『今度こそ、年始にちゃんと帰って来なさい! 大事な話があるから!』  留守録ではなく、メッセージアプリで送られてきた文章だというのに、有無を言わせぬ口調と声音まで聞こえてきそうなのはどういうことだ。
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