kiss. 9

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◆  夕食後、拓未と陽一郎はゲームをしていた。わたしはキッチンでおにぎりを3つ握った。それが終わり、ペット達の水槽とゲージに餌を入れ、ソファに腰掛けた。時計は午後9時を過ぎており、拓未は立ち上がった。 「そろそろ、帰る」 「おう、またな」 陽一郎が返事をし、拓未は玄関に向かった。 その背中を急いで追いかける。 「拓未、ちょっと待って」 準備したスーパーのビニール袋を拓未に差し出した。彼は袋に印字された名前を見て薄く笑った。 「何?」 拓未は受け取って中身を確認した。 「これ、明日の朝ごはんにでも食べて」 彼を見上げると瞳を揺らした。 拓未は小さくため息を吐き、陽一郎をそっと見て私の腕を掴んだ。腕を引かれるまま玄関に行く。  拓未の両腕にそっと包まれた。 「あ〜やっと、抱きしめられた。飯サンキュ。朝飯も」 低い声でそう言い、私を覗き込む。 「……キスしてもいい?」 「いちいち聞かなくてもいいよ」 返事をして、目を閉じると唇が重ねられた。一旦、離れて、わたしを見る。そして腰に回された腕の力が強くなった。  拓未の瞳がわたしを捉えた。  そっと視線を逸らす。 「……嫌?」 「拓未……、あのね、大事な話があるの……」 大事な話。 鳥羽祐一と緑くんの話。 自分の気持ちを伝えないと。 「大事な話……」 拓未はわたしの言葉を反復した。 頷いて、真っ直ぐと彼を見る。 「まとめて話をするね。また、連絡する。後、今から数日忙しくなるからしばらく会えない。明日は病院に泊まるし、家に来てもご飯作れないからごめんね」 拓未はそれを聞いて、眉を寄せた。 口を開けようとしたけれど、先の言葉は出てこなかった。 「分かった。会えないのは残念だけど、今度落ち着いて話す準備ができたら連絡して。待ってる」 目を伏せる。 ちゃんと言うから、もう少しだけ待って。 「おとは」 名前を呼ばれ、両頬が包まれる。 拓未の顔を見る。 出会った頃の鋭い猫目じゃない、穏やかな表情。 「なんかあったなら、なんでも言って。俺を頼って。で、俺、待ってるから」  わたしが頷いたのを確認し、拓未は玄関扉のノブを持って外に出た。  リビングに戻ろうと踵を返すとポケットに入れたスマホが震えた。画面を確認すると知らない番号だった。 電話に出ると、聴きたくて堪らなかった声がわたしを呼んだ。 「もしもし、山郷です。篠原おとはさんの携帯でお間違いないですか?」 電話の主は低くて掠れた声をしていた。
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