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おとはへ
結婚の約束をしたけれど、指輪も渡せていなかったので僕なりの精一杯を捧げたいと思います。
そして、口下手な僕は君に上手く言えないと思うから、手紙にしました。
いつも動物の写真が最優先で、後回しにしてごめん。自由に写真を撮る僕に寄り添ってくれてありがとう。
この手紙に誓います。
言葉ではまた言えないと思うから、帰ったら1番にキスをしようと思う。
君が眠っていても、帰ったら必ずおはようのキスをして起こすことを約束するよ。
僕が世界一だと思う特別な朝陽の写真を添えて。
山郷緑
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文字を追いかけている視界が霞んで、涙を手紙に落とさないようにするので必死だった。
「彼はたぶん朝陽の写真を撮りに行こうと夜にホテルを出たんだ」
斎藤さんはそう言った。
喉元が熱くなり、嗚咽が漏れた。
どうして、写真なんか撮りに行こうとしたの。
そんなもの、いらなかったのに。
どうして、ホテルでおとなしく朝を迎えなかったの。
特別な写真も、約束もいらなかったのに。
生きていてさえいてくれれば、本当は何もいらなかった。
手紙を持つ手が震え、わたしはその場で崩れ落ちた。
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