保護者(仮)

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この稲辺って男はこう言う少しの不審点とかはすぐに突いてくる。 この目敏さに僕は最初気が付かなくて何度も痛い目に合ってる。 「……うん。」 僕は怪しまれないように返事を返した。 でも微かに視線を揺らしてしまったせいで、稲辺の眉間にしわが寄った。 まずい……気づかれるッ! 「お前……」 「宗太!聞いてるの?!」 稲辺の腕がギリッと僕の首を絞め上げようとしたその時、影子さんの張りあがった声が上がった。 そのおかげでわずかに緩んだ稲辺の腕をすり抜けることができた。 「ごめん、何だっけ?」 影子さんに聞き返すふりをして影子さんの側に駆け寄ると、影子さんは僕の頭にポンと手を置いて話を続けた。 「だからね?あなたの誕生日に私の家にみんなを招待するって話よ。」 「え?」 誕生日……? 「せっかくのお友達だから、御馳走たっぷり準備しとくから楽しみにしててね!!」 影子さんの発言に固まる僕を尻目に、影子さんは料理のレパートリーの口上を並べていくと、それにつられるようにグループの面々の顔がほころび、あっという間に日程からメニューまで決めてしまった。 「じゃ、今週末の土曜日にこの住所に集合ね!!」 影子さんは住所を書いた紙を稲辺に渡すと、僕に買い物袋を一つ押し付けた。 「ほら、家まで持って!」 「え、……え?」 「それじゃまた週末ね~!!」 影子さんはグループにひらひらと手を振った。 その姿を見て荷物の重さも忘れてうらやましく思った。 きっとこういう人は僕みたいな理不尽な目に合ったこともないんだろうな……ッ重い。 思わずふらつくと、影子さんの手がぐっと背中を押した。 そのせいで僕は振り返ることもできないまま、帰り道を重い荷物を持って行かなくてはいけなくなってしまった。 「ほら、駐車場留めてられる時間ギリギリなの!急ぐ急ぐ!!」 影子さんの持った手荷物は僕のよりはるかに小さい。 絶対軽い日用品しか入っていないですよね……。 あ、カップ麺が透けて見えた。 僕は部屋の鍵が開いたのを確認して足早にキッチンに駆け込んだ。 「あれ?重かった?」 「さ、すがに……何入ってるんです……ッ。」 袋を漁ると小麦粉や調味料のほかに液体の入ったボトルや瓶が数点入っていた。 「やっぱり重かった?」 「わざとですか?」 「まっさか~!ほら、冷蔵庫入れるからひとつずつ渡して。」 影子さんは冷蔵庫を開けて袋を見て手招きをした。 一つ一つと渡していくと、影子さんがさっき言っていた御馳走という言葉が頭をよぎった。 「影子さん、僕の誕生日知ってるんですか?」 「知ってるも何も7月26日でしょ?」 「は?」 何で当たり前とでも言うようにすらっと答えられるんですか?! 「あれ?違った?」 「何で知ってるんですか?」 「教えてくれたでしょ。」 あぁ、そういえば……。 「教えてないですけど?!」 「細かいことはいいでしょ?ほら冷蔵庫駄目になるから早く。」 そこから影子さんは何も明かしてくれることもなく、あしらわれるだけだった。 僕はしぶしぶ袋の中身を影子さんに回して、空になった袋を畳んだ。
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