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出会い
病院を出てから公園の時計を見たら我に返って、そのまま公園の端のベンチに座り込んだ。
もちろん学校に行く義務も分かっているし、このバスに乗らなくては学校に遅れるってことも……。
それでも学校の敷地に入ってからの仕打ちを考えるだけで、足がすくんでしまってベンチに座り込んでいた。お察しの通り、僕はクラスからのいじめに困窮していた。
俯くと影が夏の光に対するように、真っ黒く深い闇に見えて心が吸い込まれそうだ。
すると僕の影に一つの長い影が重なった。
「学校どうしたの?」
「……。」
「誰ですか、あなた。」
「あっはは!誰でもないよ。」
女性が2つの缶飲料を片手持ちで揺らす。
「ブラックとカフェオレ……どっちがいい?」
「……カフェオ「えぇー!!わたし飲みたかったのに!」……ブラックで。」
「おー、そう来なくっちゃ!!」
「何で選ばせたんですか?」
「あれ?こんなノリ嫌い?」
「」
「うわ露骨—、あははッ!」
女性は僕の右隣に腰かけると右掛けに足を組んだ。
後れ毛がこぼれるほど上で縛られたポニーテールが女性の動きに合わせてバッサバッサと揺れる。
そして人差し指で2,3回ほど空振りしてから、中指で缶を開けた。
「今日は中指の日かー。」
中指の日ってなんだ……。
「で?どうしたの?」
「……関係ないでしょう。」
「ま、そうなんだけどね!」
「何なんですか!」
「家の人には学校って言ってあるの?」
「……いや……何も「よし、じゃ乗って!!」は?!」
女性は車の助手席を開けて手招きをした。
「早く!」
送ってくれるって事だろうか……と僕は座席にお邪魔した。
「じゃ、しゅっぱーつ!」
乗ったものの、女性の運転する車は学校はおろか、見慣れた街並みからどんどん離れていく。
「……あの!」
「ん?」
「学校行くんじゃないんですか?」
「え?何、行きたかったの?」
「……いえ。ただ、どこに向かっているのか分からないので。」
「そうだねー、どこがいい?」
「……下ろしてください。帰ります。」
「ダメだよ、誘拐してるんだから。」
「……は?!」
「『は?!』って……まさか自覚なかったの?」
「」
「だって高校生を大の大人が、しかも他人が乗せてるんだよ?君、警戒心ないんだね。」
「誘拐される理由がありません。」
「誘拐って理由要るの?」
「いや知らないですけど!……動機とか……何かそう言うの報道されてるじゃないですか!」
「あー、そんな大それたものはないかなー、1人で車乗ってると暇だったし、運転してて寝ちゃいそうだったし、この際誰か誘おうかなーと思ってたところに君がいたってわけ。」
「普通見知らぬ未成年を車に乗せますか?」
「“出会いは一期一会”だよ。」
意味がわからない……話せば話すほどこちらが馬鹿になったみたいに感じる。
「あ、そうそう!学校の番号わかる?」
「……はい。」
僕がスマホのパターンを解除すると女性はひょいと奪い取り僕の携帯を使って電話をかけ始めてしまった。
「あ、もしもしお世話になってますぅ。宗太の叔母です!申し訳ないんですがねぇ、家庭の 事情で1週間ほどお休みをいただきますのでよろしくお願い致しますぅ。」
そして返事も聞かないままブチッと切ると僕にスマホを押し付けた。
「よーし!これで1週間は休めるから、引っ張り回すよー!!」
「はぁあああ!!???」
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