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僕は、きょとんと女性の目を見入った。
だってそうだよ。誘拐するって本人に伝えてくるだけでもおかしな話なのに、部屋の鍵まで渡してしまうなんて……。
「正気の沙汰ですか?」
「ん?んふふ、うん。」
何でそんなバカにしたような目されたのかもわからない。
「何で?」
「……鍵待ちで玄関に立ち尽くすのってつらいでしょ?」
「は?いや、別に僕の家に帰れますけど。」
「駄目だよ。帰っても一人でしょ。」
「」
何で僕の家事情知ってるんでしょうか……?
「あ、とちったね~私。」
「とちりましたよ……、誰ですかあなた。」
「私?影子えいこ。名字は橘。あなたとは初対面。お~けぇ~?」
なるほど……。
「……いや、全然OKじゃないです!!何で僕の事知ってるんですか?さっきから名前も言ってないのに……何者ですか?」
「ほら、さっきも言ったでしょ?誰でもないよって。ほら、箸選んで!!」
「チェック柄でお願いします!!」
「はいは~い。」
「いや、そうじゃなくって!!」
「ハイハイ、次はお茶碗!!」
「~~ッ!!」
結局何も話は聞けないまま、食事と入浴を済ませた僕はタオルを首にかけてリビングに置いておいたスマホを手に取った。
すると、入れ替わりで入浴の準備をした影子さんが通り過ぎる直前に僕のスマホの前に手をかざした。
「宗太。」
名前を呼ばれてももう驚くこともできない。どこまでも知られているんだろうし。
僕が顔を上げると、影子さんは髪をバサバサとタオルで拭っていた。
「」
「8時以降は朝まで部屋から出ない事ね。」
「はい?」
「怖~いお化けが徘徊するから!!」
「……何ですかそれ、馬鹿馬鹿し「うわぁ!!」おぉっ……。」
急に大きな声出されれば誰だってビビりますから!!
「きゃっははは!!」
「脅かされたくないのでもう寝ます。」
「あはは、お休み~。8時以降は「部屋から出ませんから。」いいね~。」
僕はため息をつきながら部屋に向かった。
とりあえず何も持ってきてないけど、体操服はあるし、部屋って言われる位だから最低限毛布くらいはあるかな……。
この鏡も……なんとなく胡散臭い……。
部屋を開けると、その中には……。
「嘘だろ……。」
僕の私物がすべてきっちり整理整頓され設置されていた。
ベッドはもとより、自室のタンスの果てまでとか……。
部屋の扉を閉めるために振り返ると、鏡だったはずの場所には窓が設置された状態になっていた。
これって……。
「マジックミラー……」
ここで、号まで口走らなかった僕はまだ健全だろう。
いや、バカらしい……。本当にもう寝よう……。
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