14人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
プロローグ1
月玉と雷(いかずち)の剣はナスカ皇国に古くから伝わる宝物である。
その月玉は代々の巫女と呼ばれた女性たちが守ってきた。
当代の巫女はイライア・フレイアという。
見かけは十七歳の少女だが実年齢は四十歳を少し越えたほどである。そんな彼女は長年に渡り、国の宝物と共に結界の守り主でもあった。
だが、雷の剣は長い間、持ち主が現れる訳でもなく、皇宮の奥に保管されたままであった。
「…今年は雷の剣の持ち主を決める儀式をしようと思う。そのためにもイライア、あなたも持ち主選びを手伝ってほしい」
当代の皇帝は月に神殿にてそうのたまった。
「…陛下、それは二十年前にもおっしゃっていましたね」
イライアはため息をつきながら答える。皇帝は名をジャン・アンドレア・スティクスといった。当年とって、四十二歳になる。
イライアよりも一つ上であった。
「イライア、あなたを選んだのはこの私だ。といいたいところだが。月神、ルーシア様が選んだ巫女よ。雷光剣と白夜剣の二つを扱う事のできる持ち主を見つける事が可能なのはあなただけだ。こうして頼んでいるのはそのためなのだよ」
「…おっしゃりたい事はわかります。月玉の巫女でないと剣の持ち主ー白雷の神子(はくらいのみこ)を見つけられないのは」
ためらうイライアに皇帝ことジャンは頭を深ヶと下げた。
「今、この国は危機に瀕しているのだ。巫女よ、対の方を早く見つけてほしい」
「わかりました。国の為とあらば、仕方がないですね」
「すまない、イライア。そう言ってもらえると助かるよ」
やっと、頭を上げたジャンにイライアは苦笑いで答えたのであった。
イライアは皇宮へと帰って行く皇帝を見送った。
若かりし頃は明るく、溌剌としていて優れた剣術の使い手だった。未だに、腕は衰えていないだろうが。
それでも、昔は剣術をたしなんでいた自分であっても驚かされるほどに凄まじい使い手であった。
(ジャン、私もあなたも年を取ったわね。それでも、あなたを尊敬しているわ)
イライアはそう思いながら、笑みを浮かべた。そして、神殿の空から見える青空を眺めやった。
「…ねえ、ジーク。本当に皇都に行く気なの?」
茶色の髪と瞳をした少女が栗毛色の髪と緑色の瞳の少年に話しかける。
ここはナスカ皇国の西部に位置するディアールの村であった。栗毛色の髪の少年は名前をジーク・プレアデスという。
「本気だよ。ローズもたいがいしつこいぞ」
うんざりとした表情でジークは答えた。少女めいた顔立ちと男にしては小柄でほっそりとした体つきは十八歳には見えない。
茶色の髪の少女、ローズことローズマリー・シェイラスは不満そうに顔をしかめる。
「しつこいって何よ。ジークってば、本気で雷の剣の持ち主の白雷の神子になれると思っているの?」
「思ってるよ。だから、今から剣術を鍛えるんじゃないか」
「…ジークはわかってないわ。雷光剣は自分が気に入った人でないと持ち主として認めてくれないらしいじゃない。それでも行くの?」
「行く。生涯に一度あるかないかくらいの確率なんだぞ。だったら、選ばれなくてもいいんだ」
そう言い切ったジークにローズはため息をついた。
好きにするといいと言ってその場を離れた。ジークは黙ってそれを見ながらも剣術の修行の為に森へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!