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見覚えがある・・・
母に抱かれて眠る父の姿を。
あれは“弱い男”だと
ああはなりたくないという幼い傲り。
たかが病いに震える自分に
どうして父を責められようか・・・。
取り返しのつかぬ歳月に
涙がやまない・・・。
「あなた、いつも私を労ってくれて
仕事が大変なときもあったでしょうに
愚痴も言わずに働いて・・・。
こんな時くらい、私にも
“いい格好”させてよ。私達だって
大恋愛で結婚したんじゃないの。
あなたを支えていく力くらい・・・」
妻の涙がポトリと頬に・・・。
おそらくそのカーテンの陰で
鼻を啜っているのは息子だ。
みっともない・・・。
みっともない父親の姿と
聖母のような母親の横顔・・・。
何をみっともないなんて・・・。
みっともないのは僕だ。
みっともない・・・
みっともないけれど
しばらくはこの妻の腕の揺りかごに
揺られて心を解きたい・・・。
ー 了 ー
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