サウジアラビア王国 マダイン・サーレハ

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サウジアラビア王国 マダイン・サーレハ

「パァン!」 乾いた破裂音を合図に狩りが始まった。 手榴弾が木戸を粉砕し、立ち込める硝煙に無数の星がきらめく。 預言者サーリフは岩だらけの土地に潤いを携えて訪れたが、幾星霜を経た時の果てに死神が舞い降りた。 「世も末だ」 肥満体が両手を挙げて壁に背を向ける。 「頼むから、いの…」 銃声。 鮮血と脳漿が液晶画面にへばりついた。 「お前たちは獣だ。大脳皮質と五感でとらえる他に神を見るすべを知らない」 賊を率いる男が進行中の惨劇を見回した。壁にいくつも大穴が開いて、後続部隊が死体を踏み越える。処刑対象に女は含まれていない。友軍誤射の無いよう刑罰を下すべき相手の容姿を鮮明に記憶し、隊員には識別塗料をたっぷり噴霧した。1発5000ドルのスマート弾。量子の猟犬は失敗の二文字を知らない。 「エコー。フォックストロット、制圧完了。アルファ、ブラボーも順調」 成果が続々と報告されてくる。作戦は順調だ。上層部は空調の効いた密室で安楽椅子に慢心をあずけ、ワイングラスを傾けているだろう。 だが、現状は厳しい。 「デルタの進捗はッ?」 彼は腕にいらだちをぶつけた。 「それがもぬけの殻で」 「航空支援を要請しろ」 手短に次善策を下す。大黒星だ。作戦が事前に漏れていた。よくある事例だが ひとつ、気にかかる事がある。大を捨て小を取り、大義に殉じる気骨が転がる死体どもから微塵も感じられない。そもそも性欲の偶像で壁天井を埋め尽くす輩にどんな高尚があるというのだ。 「A-10Aのエンジンコンプレッサーにトラブルが発生。離陸が遅れるそうです」 無能な腕輪が御託を並べる。これも通過儀礼だ。 「待機組が戦闘哨戒しているだろう。探させろ。逃げ足よりも翼だ」 彼は淡々とリカバリーの手順を踏む。おおよそ軍事会社とは名ばかりの野盗の群れに命を預けろと決定したのは上である以上、現状認識するしかない。 逃げ足よりも翼。それが自身と部下を何度も救った。 「翼…待てよ?」 男は踵を返した。暗視ゴーグル越しに山積みされた退廃が浮かび上がる。吐き気をもよおす不浄の絵画――芸術と呼ぶことができればの話だが――正視に耐えないDVDパッケージ。そのどれも今までに葬ってきた下賤と違う。 「MOABを投下します。速やかに退避を…」 戦闘爆撃隊が勧告している。途端に男の表情が凍った。 「待て! 撤退するのはお前らだ」 「だって、口八丁で雇われた陽動は、実は金庫番で、逃げた奴らの方が囮だっていうじゃありませんか」 そうだ。セオリーを踏襲すれば部下が正しい。頃合いを見て必ず戻ってくる。だから焼き払うのだ。 「いや、こっちが嵌められた」 男は腕輪を懸命に説得する。 「……ノイズでよく聞こえませんが? 「ディープフェイクに乗るな」 矢継ぎ早にノーが突きつけられる。 「バカ、俺の話を聞け!」 彼は退廃芸術の山を生中継した。分析チームには一目瞭然だ。 「命を無駄にするな。これは罠だ」 声を振り絞ると静寂が訪れた。 1分、2分。世界が凪いでいる。 「ふぅ」 彼は肩の力を抜いて紫煙を燻らせた。白目を剥き、呆けた屍に1本咥えさせる。 「一服するか?」 その瞬間。彼は第二の太陽に包まれた。 「コバルト爆弾だと? なぜだ! なぜHENTAIどもが放射性物質を隠匿している?」 暗室の将軍たちは耳を疑った。 「偏執狂は色狂いだけとは限りませんぞ。メカフェチと申しましてな」 痩せこけた初老が答えた。
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