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「俺の顔になんかついてる?」 気がついたら彼の顔が寸前まで近づいていた。 「あ、いや、その・・・」 かっこいい彼を前にして金縛りにかかったように動けなくなった。 「あんた前髪長すぎね?メガネもでかいし。のび太みたい」 初対面で失礼な、と思ったが僕は初対面ではない。 といっても彼の小さい頃しかしらないけれど画面越しに顔を見た。 テレビに写る彼は母親に手をひかれ泣きじゃくっていた。 『パパに会いたい』、そう言っていた。 その彼が大きくなって僕の目の前にいる。 自分は母の尽力で法律的に逃走することができたが、被害者の方の心の傷までは思い及ばなくて自分たちを守ることだけに必死だった。 ドアと彼にはさまってせまい空間から逃げられない状態だったが、そのドアが開いて数人が入ってきた。 新入生?と聞かれて「はい」と小さく返事した。 「サークル入りたいそうですよ、彼」 志音は大きい声で先輩に言うと、にっ、と笑った。 まだ決めてなかったが強引に参加する形になった。 どちらかというと入るのをやめる方向で気持ちは決まっていた。 被害者家族に関わることに平気なほど僕の心は強くなかった。 それに彼の姿に一瞬で心を奪われたことに気が付かれたくなかった。 今まで出会ったことのない悪い男の匂いがした。
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