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お酒
僕から後にも数人新入生が入って、先輩たちがささやかな歓迎会を開いてくれた。
全国チェーン展開している居酒屋で僕たち未成年はアルコールが飲めなかったが先輩たちは楽しそうに飲んでいた。ひとしきり自己紹介をしてから日本史関連の話や雑談する。
「酒飲めないなんてつまんないっすよ」
志音が笑いながらお茶を飲んでいる。
バーで飲んでいても絵になりそうな志音。
それにくらべて野暮ったい僕。真面目に勉強しかしてこなかったから周りの友人も似た者同士で大学に来てからいろんな色の人間を見ることになった。
思わず見惚れてしまう。
「あのさ、何度も言うけど俺の顔になんかついてんの?」
気がつくと僕の隣に来ていた志音が言った。
「あ、ごめんなさい・・・、無意識で」
「俺に惚れちゃった?なーんて。あはは!」
お酒は飲んでいないはずなのに妙にテンションが高い。雰囲気で酔うタイプなのだろうか。
「黒川くんはどのあたりが好きなの?」
先輩が話題を変えてくれた。
「あの、えっと、太平洋戦争あたりが」
「えー!?かわいい顔に似合わずすごい所攻めてくるねえ」
「戦略とか勉強するの好きなんです」
これは母の影響だ。人生を知恵で戦う母。
「諸葛亮だ」
「それ世界史」
先輩たちは酔って他愛のないことを話す。僕たちは緊張しながらも共通の話題で盛り上がる。自分もお酒が飲めるようになったら楽しくなるかな。
「なるほど戦略ねえ」
志音は僕の耳に息がかかるくらい近づいて静かに呟いた。
「ね。佐藤賢くん?」
父の名字。
僕は凍りついた。
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