リモコンを探せ!

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リモコンを探せ!

「殺されたくなければ、リモコンをよこせ」  その声に、僕は両手を上げる。  銃を向けられてこそいないが、冷たく機械的な声には恐怖を感じたからだ。 「あの」  僕はありったけの勇気をふりしぼって、声の主に言う。 「リモコンの在処がわからないんだ」 「嘘をつけ」  刃のような声に僕は思わず震えあがる。 「ほ、本当なんだっ!」  しばらくの沈黙のあと、声の主はこう言った。 「それじゃあ、探せ。死ぬ気で探すんだ」 「わかった」 「五分だ。五分だけ時間をやる。いいな」  僕は慌ててリモコンを探した。  勝手知ったる我が家のようなこの場所で、あのリモコンがありそうな場所は大体、見当がつく。  僕は棚の上を覗き込みながら思う。  こんなことなら、リモコンを置く場所をいつも決めておけば良かった。  それとも大事に金庫にでもしまっておくべきだったか。  いや、それではリモコンが使えないか。  こんな時だってのに、そんなバカげたことを考えながら、僕はあちこちを探す。  どこにもないぞ。  棚の上、テーブルの下。  僕がリモコンを置きそうな場所や、落としそうな場所を探してみたがどこにもない。  カチコチという時計の針の音だけが静かに部屋に響く。 「あと残り一分だ」  機械的な冷たい声が響き、僕は飛び上がりそうになる。  まずい、リモコンが見つからなければこいつは何をするかわからない。  僕は必死で頭をフル回転させた。  そうだ、ベッド付近の可能性もある。  わずかな光を頼りにするかのように、僕は別室へと急ぐ。  寝床にしている部屋に来ると、僕はふと思い出す。  昨日、パソコンをしながら片手にリモコンを持っていたんだ。  ベッドサイドのテーブルに視線を向ければ、そこにはリモコンがある。 「五、四、三」  僕はリモコンを掴み、それを掲げる。  奴の恐怖のカウントダウンが止まった。  しかし、次の瞬間。 「それじゃない」  機械的な声に、僕は掴んだリモコンをよくよく見る。  エアコンのリモコンだった。  声の主は言う。 「俺が探せと言ったリモコンではない」 「慌てて間違えたんだ」 「言い訳はいい。お前は失敗した」 「もう一度、探す。だから乱暴はよせ!」  パァーン。  大きな破裂音。  それと同時に、小さな四角い箱が画面を映し出す。 『ミッション失敗』  僕は息を吐き、小さな四角い箱を持ちあげる。  これは、誰でも強制的にリモコンを探す気になる機械だ。  先ほどの殺し屋バージョンだけではなく、優しいお姉さんの声やお母さんの声なんかもある。 「うん。ここでもうまく作動するな」  僕は頷いてから、機械を操作する。  すると、今度は機械的だけど、優しくきれいな声が響いた。 「ねえ、早くリモコンを見つけてくれない?」  これは優しいお姉さんバージョンだ。  やはりこれがいい。 「さ、大事なリモコンを探して。ね?」 「はーい」  僕はそう返事をしてから、ふと窓の外を見る。  タイムマシンの外は目を覆いたくなる光景が広がっていた。 「百年後の未来になんか来るもんじゃなかった」  僕はそう言いながら、リモコンを探す。  もう二度とタイムマシンを、リモコン式にはしないと心に誓いながら。
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