絶対にバレないカンニング

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絶対にバレないカンニング

 問題集に視線を落としたまま、シャープペンシルを持つ手を止めた。 「あー、わっかんねえ」  僕はそう言うと、机にシャープペンシルを放り投げて、そのままベッドに寝転んだ。  明日は中間試験。  中学三年生になって最初の試験で赤点を取るわけにはいかない。  でも、僕は勉強が嫌いだ。  いや、大嫌いだ。  高校へ行ってまでまた三年間、勉強をするのも腑に落ちない。  そうは言っても勉強をしなくても将来困らないような才能なんて僕にはないんだよな。  才能とは呼べないが、変な特技だけはある。  それは本を読むと、その本の内容が必ずその夜の夢の中に出てくる、というものだ。  だから怖い本は読めない。 「そんなの何の役にも立たない……」  そこまで言って、僕はふと思い立つ。  教科書や問題集を読んだら、その内容が夢に出てくるのかもしれない。  今まで実践していないが、教科書も問題集も本だから可能性はある。  しかも僕は夢の内容をある程度、記憶していられるほうだ。  まあ、別の夢を見てしまうと記憶は新しいほうの夢に引っ張られてしまうのだが。  とにかく明日の試験の科目の教科書やらノートやらを読んで、夢に出てくるか試してみようか。  もし、覚えていられれば明日の試験は楽々だ。  試験に出そうなところや教科書のポイントだけを読み込めば、なんとか明日の試験の三教科分はいけるかもしれない。  そう思って、僕はすぐに机に向かった。  問題を解くのではなく、ただノートを読んでいくだけにした。  暗記をするわけではないので、何度も書いたり読んだりするわけじゃない。  これはかなり楽だ。  その日の夜は、僕は祈るような気持ちで眠りについた。  どうか今日の勉強を夢に見ますように。  そんなふうに祈っていたので、なかなか寝つけなかったのだ。  次の日は僕は朝から教室でニヤニヤしていた。  なぜなら、夢には問題集やノートの内容が出てきたからだ。  そしてバッチリと記憶にも残っている。  よしよし。この方法なら楽して良い点数を取れる。  そんなことを確信した時。 「おい、この小説、すっげー面白いぞ」  友人が何やら本を僕に見せてくる。 「なんで試験期間中に小説読んでるんだよ」 「いやー、兄貴が貸してくれたんだけど試験勉強そっちのけで読んじゃってさあ」  友人の言葉に僕はその本を読んでみる。  勇者が魔王と戦うところから始まる王道ファンタジーだが、おもしろい設定と展開だ。  ついつい何ページか読んでしまった。  試験が終わったら僕も買ってみよう。  そう思って、目をこする。  昨夜はあまり眠れなかったから、寝不足だ。  あくびをして、大きくのびをする。  しかしそれでも睡魔はしつこく、机に頬づえをついた瞬間。  ふっと意識がなくなる。  すると僕の目の前には恐ろしい魔王が立っていた。  驚いて目を開けると、そこは見慣れた教室。  気づけば先生が教卓の前に立っている。  もう試験が始まる。  でも、僕の頭の中には昨日の勉強の夢の記憶はない。  先ほどの小説の夢にすっかりと上書きされてしまっていたのだ。  ああ、こんなことなら普通に勉強をしてくれば良かった!
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